そういえば駅のホームを思い出してみると……
駅舎自体はともかく、1・2番のりばのある島式ホーム中央のガラス張りの待合室は、座席の背板がサーフボードになっている。駅舎のリニューアルに先立って、オリンピックムードを盛り上げるための取り組みのひとつだったのだろう。
そういうわけで、上総一ノ宮駅はサーファーの駅(といっても鉄道で来るサーファーはほとんどいないけど)。駅から真新しい東口に出て、30分ほど田園地帯を歩いて抜ければ太平洋だ。
1944年、戦時中には風船爆弾の実験が行われたという秘話もある。太平洋の向こうはアメリカだから、戦争末期には米軍の上陸にも備えていたのかもしれない。
そうした歴史を持つ町も、いまやすっかりサーファーの町として、つまりリゾートの町として存在感を示す。天気が良い日であれば、夏だろうが冬だろうが、サーフィンは季節知らず。
もしも金縛りにあって東京駅で降りられず、上総一ノ宮駅までやってきてしまったら。絶望ついでに海まで歩き、サーフィンでもはじめてみてはどうだろう。陸サーファーよりホンモノのサーファーのほうがよほどカッコいい。ボードのレンタルや講習をしてくれるショップもあるみたいですよ(写真=鼠入昌史)。

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