2022年に復活を果たしたもののうちのひとつが、ハロウィーンである。行動制限なしで迎えるハロウィーンは3年ぶりで、渋谷の町には仮装した若者たちが列をなし、大にぎわいとなった。
渋谷がにぎわうといえば、4年に一度のFIFAワールドカップもそうだ。日本代表がドイツ相手に歴史的勝利を挙げた24日未明には、大勢のサポーターが集まり快哉を叫んだ。史上初の秋冬開催となるカタールW杯だが、スクランブル交差点の熱気に季節は関係がない。
ところでこちらの写真は、そんな渋谷の町を写した一枚……。
……では、ない。
スクランブル交差点にひしめき合う人の群れと、それを眺めて一服する喫茶店の客。まさしく渋谷の昼の様子なのだが、よく目を凝らして見てほしい。
喫茶店の名前は「STARBACKS」で、シアトル式のあのチェーン店とはつづりが違う(本家は「STARBUCKS」)。1階のテナントも「TSUTAYA」じゃなくて「TATSUYA」。そして何より、横断歩道を渡る人の顔には、目鼻がない。
この写真の正体は……
実はこの写真、渋谷の町の精巧なジオラマを写したものだ。製作したのは「Cityscape Studio」の「都市モデラーMAJIRI」氏。卓越した技術で話題となっている、20代前半の若手作家だ。
既製のパーツを組み合わせるのではなく、建物や町並みといった構造物を設計から行う、いわゆる“フルスクラッチ”で製作されるジオラマの数々。つまりこの渋谷の町も、人形の一体一体に至るまで、素材から作り出されたオンリー・ワンのスケールモデルなのだ(車両を除く)。
「渋谷を作ったときは、人形を塗装するのが特に大変でしたね。数がとにかく多い! でもやっぱり、渋谷ならではのにぎわいを再現したかったので、そこは妥協できませんでした。半年か、下手したら1年くらいかかったでしょうか」(都市モデラーMAJIRI氏、以下同)
彼の作品を支持するのは、模型雑誌を読み漁るような愛好家に留まらない。TwitterやInstagram、YouTubeといったソーシャルメディアでは、遊び心をもって撮られたジオラマの写真が、多くのユーザーに共有されている。
「百貨店の企画で展示されることもありますが、主に見てもらう場はSNSですね。Cityscape Studioが独立してやっていく上では、模型や部品の販売と並んで、YouTubeでの収益も大きな柱となっています」
ジオラマ作りの背景には“あのゲーム”
模型といえば、アナログ趣味の王様である。テレビゲームが流行るよりも昔から、戦車やロボットのプラモ作りは子どもたちの娯楽であった。
MAJIRI氏も、自身の手で組み立て作業を行っており、完成したジオラマはれっきとした“アナログ作品”だ。しかし彼の作品には、デジタルの英知が詰まっている。