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「大型のジオラマでも、素材だけで見れば、原価は数万円程度です。でもそのかわり、何十時間、何百時間という途方もない時間と情熱が必要になります」

 依頼を受けて模型を製作することもあるが、あくまでも作りたいものを作るのが優先だというMAJIRI氏。この取材日にも、映画『天気の子』の舞台となった渋谷区のビル「代々木会館」のジオラマを工作している最中だった。1/80スケールで完成した代々木会館の様子は、彼のSNSで確認できる。

「平成ノスタルジー」の時代

 1/148~1/160のスケールで製作されることが多いため、カテゴライズをするならば、Cityscape Studio作品の大半は“鉄道模型”ということになる。しかし、「車両を主役にして美しく見せる」という鉄道模型のセオリーには、必ずしも当てはまらない。

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電球も点灯する、丸ノ内線御茶ノ水駅のスケールモデル。精巧なジオラマならでは「美麗」と日常の光景ゆえの「地味」が同居する不思議さがある

「鉄道だけじゃなく、“鉄道のある風景”が好きなんです。だから車両の走っている景色を、ありのままに描きたいと思いました。田舎の風景にアソビがあるのと比べて、都会の風景って、ズレるとスキマが出てしまうんですよ。なのでデフォルメを交えながらも、極力正確に再現するようにしています」

相当近寄ってみないと、厚紙でできているとはわからない

 ところでジオラマといえば、郷愁を誘う“昔ながらの景色”が人気を集めている。木造家屋の密集した住宅地、未舗装の細い路地、路面電車、看板建築、駄菓子屋、ランニングシャツを着て遊ぶ子ども……。団塊世代が目にした昭和の光景である。味わい深い作品がたくさんあるが、思い出は美化されるのが常だから、多くの場合、大胆なデフォルメを含んでいる。

 インターネットで入手した大量のデータに基づき、現代の都市をありのままに描くMAJIRI氏のアプローチは真逆だ。しかし似通う部分もある。

「自分は生まれたのも育ったのも平成なので、懐かしい景色というのは、すべて平成のものなんです。だから平成の町並みを忠実に再現することで、その“懐かしさ”を保存していけたらと思っています」

生活感の強い小物の数々。このサイズであらためて確認すると、子どもの頃は、大人の自転車やポリバケツが大きく見えたものだったことを思い出す

 いつの時代も都会の人は、同じ景色がずっと続くと思いがちだが、そんなことは全然ない。代々木会館や中銀カプセルタワービルのようなランドマークが取り壊されるのはもちろんのこと、看板がひとつ掛け変わっただけでも、街の印象は大きく変わる。だからこそ、誰も動かない模型の街が、時代を物語る貴重な資料になるのである。

 SNSで“リアルすぎる”と称賛される作品の数々。10年後や20年後には“懐かしすぎる”ものとして、再度話題に上るのではないだろうか。

Twitterでバズったという、信号機と横断歩道のジオラマ。持っていれば巨人の気分!?(写真は 1/1 MAJIRI氏本人)

写真=山元茂樹/文藝春秋

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記事で取り上げたCityscape StudioさんのYouTubeチャンネル、公式サイトは下記の通り。

YouTube:https://www.youtube.com/c/cityscapestudio

公式サイト:https://cityscape-studio.jp/

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。