いまや大阪制作の朝ドラでその姿を見ないことはない名バイプレイヤー・湯浅崇。最新作『おむすび』までで通算14作の朝ドラに出演を果たした彼の、役者としての魅力に迫る。小劇場の俳優として「食えなかった」時代から、大きな転機となった初めての朝ドラ『カーネーション』への出演までを聞いた、全3回の2回目(1回・3回を読む)。
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――当時、湯浅さんが所属されていた「未来探偵社」の座長・隈本晃俊さんからお許しが出て初めて他の劇団への客演が叶い、そこから少しずつ芝居がわかりはじめたと。
湯浅崇(以下、湯浅) 「爆苦連名世!(ばっくれんなよ)」という劇団の「科学特捜隊」(1999年)という公演への客演で、初めてメインの役をやらせてもらいました。
――やはり主宰の方は湯浅さんに何か光るものを感じたから、声をかけてきたわけですよね。
湯浅 小劇場の役者は横のつながりがあって、他の劇団のセットとか美術の仕込みを手伝いにいくんです。僕の先輩が出ていた舞台を手伝ったとき、作業しながらダンスのシーンを横目で見て、振り付けを覚えてたんですね。そしたら出演者の方たちに「あいつすぐ覚えるな」「動けるな」と思ってもらえたみたいで。僕の芝居見たことないのに「出てくれないか」と。でもいざ現場に行ったら、全然芝居がでけへんっていうことが明るみになって(笑)。
――舞台で印象に残るエピソードはありますか?
湯浅 ヤクザの役をやったことがあったんですけど、僕はプライベートで声を荒らげることはおろか、怒ったことがないんですよ。両親も温和な性格で「怒る」という感情を見ずに育ってきたので、怒り方を知らない。やり方がわからへんのです。
ヤクザの練習のために2カ月間長渕剛さんの曲だけを延々と…
――「怒る」という感情がわからない?
湯浅 同期の俳優に今でも言われるエピソードがあって。僕が道を歩いてたら自転車に強めにぶつかられて、明らかに向こうが悪いという状況やったと。それで「おい」とか何とか言うんかなと見てたら、ちっちゃい声で「もう……」とだけ言うたらしいです(笑)。
――そんななか、どうやって「怒る」という感情を作ったんですか?
湯浅 そのときの僕の役が「長渕剛さんのことが大好きなヤクザ」という設定やったんです。だから稽古から本番まで2カ月の間、ずっと長渕剛さんの曲だけを延々聴いて、出演されてたドラマや映画ばっかり観てました。曲は初期の長渕から最近の長渕までずーっとループで聴き続けて。
――本番では「長渕トレーニング」の効果を発揮できましたか。
湯浅 手伝いをしてた新人の後輩が大きいパネルの出し入れをする役目やったんですが、立てかけ方が悪くてリハーサル中に倒れてきたんです。そのとき、咄嗟に「おい! 適当なことすんな!」って怒ったんですよ。心の中で『今声荒げて怒ったで』と思いながら(笑)。生まれて初めて自然に「おい!」と口から出た瞬間でした。