――視聴者にはちゃんと「怖い先輩職人・田中」に見えていましたよ。

湯浅 頭に手ぬぐいを巻いてたんですが、監督が「じゃあ、『一週間早かっただけやろが!』と言いながら手ぬぐいを取って、さらに顔を近づけてみようか」とか、いい感じで怒ってるように撮ってくれて、ありがたかったです。舞台で演じたヤクザの役作りに助けられたところもあるかも(笑)。

――「長渕トレーニング」が『カーネーション』でも役立ったと。岸和田弁の巻き舌も決まっていました。

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湯浅 あのときヤクザをやってなかったら、田中はできなかったかもしれません。僕は大阪・堺の育ちではあるんですが、父親は京都の人間で、家の中での会話も柔らかい感じやったんですね。でも、通ってた高校が岸和田にほど近い泉大津の学校やったんで「あの感じでしゃべればいいんだな」と、高校時代のまわりの子らの言葉を思い出しながら田中を演じてました。

――社会人の先輩として、田中が糸子に窓の拭き方を指導する際の「縦縦横横や!」という台詞は、『カーネーション』ファンの間では伝説となっています。

尾野真千子 ©時事通信社

湯浅 あれはいい台詞をいただきました。初めてのドラマでもらった台詞なので、今でもよく覚えてます。田中が窓を拭くジェスチャーをしてみせるところは、監督から細かく動きをつけてもらって。あのシーンで田中は横顔から斜め後ろ姿しか映ってなくて、「カメラのほうを向いてやらんでもええねんな」というのが新鮮でした。舞台だとお客さんに顔を向けて芝居をするのが基本なので。

――特に朝ドラはカメラの台数が多く、マルチアングルで撮っていると聞きました。

「酔いつぶれた僕のデカいリュックを尾野さんが背負ってくれて…」

湯浅 「台本に書いてあることをやり終えた後も芝居を続ける」というのも新鮮でした。田中と岡村が揉み合いになるシーンで監督が、「このまましばらく喧嘩しといて」と言わはって。「大将(トミーズ雅)に頭をバーンとはたかれる」で台本は終わってたけど、その後も芝居を続けて「お前のせいで叩かれたやろが」「叩かれたほうが偉いんじゃ」とかアドリブで言うたりして、楽しんでました。ドラマではリハーサルと本番、その場その場で芝居が変わっていくのが面白いなと。

――「桝谷パッチ店」の撮影期間はどのくらいだったのですか?

湯浅 足踏みミシンの稽古期間に1週間、スタジオに入ってからは3日間で撮り切りました。毎日NHK大阪とホテルの往復で朝から晩までみっちり撮影して、全部撮り終えた後、打ち上げがあったんですが、2杯ぐらい飲んだところで気を失ってました(笑)。

 

――疲れがどっと出た?

湯浅 「湯浅さん! 湯浅さん!」という声で目が覚めて。こんなに緊張してたんやなと気づきました。打ち上げには尾野真千子さんもいらっしゃったんですけど、僕がつぶれてるんで、帰りに僕のデカいリュックを尾野さんが背負ってくれて(笑)。「ごめん……」って言いながら帰った記憶だけは鮮明に残ってます。

→第3回に続く

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