「カーネーション」の少し前は「芝居をやめようと思ってたんです」
――15年ほど舞台俳優として活動され、36歳のとき、朝ドラ『カーネーション』(2011年後期)に出演されました。
湯浅 実はその少し前は、芝居をやめようと思ってたんです。結婚しようと決めて、小劇場の役者ではお金にならんし、ちゃんと就職せなあかんなと。そう思った矢先に仲間から「役者の力だけで見せる劇団」を作るという話を聞いたんです。音響とか照明に頼らず、舞台美術や衣装にもお金をかけず、舞台装置はパイプ椅子だけ。役者は全員おそろいのつなぎを着っぱなしで、1人10役ぐらいを演じるというコンセプトの劇団で。
――その劇団に誘われたと。
湯浅 これやったら赤字も出ないし、「出れるときだけ出てくれたらいい」ということやったんで、仕事とも両立できるかなと思って、未来探偵社をやめて入ることにしました。それが今も所属している「テノヒラサイズ」という劇団です。とはいえ「役者で食べられてる」という状態やないし、「さてこれからどうしよう」と思ってたときに『カーネーション』に呼んでいただきました。
――大きな転機ですね。
湯浅 今僕が所属する事務所の社長が売り込んでくれたんです。それで『カーネーション』のチーフ監督さんが舞台を観にきてくださって、声をかけていただいた。それで「役者やめなくてもいいか」という気持ちになりました。
――芝居勘をつかむきっかけになった客演といい、『カーネーション』出演といい、ふさわしい時期に転機を呼び寄せるというか、「持って」ますよね。
湯浅 そうなんですかね。でも、ほんまにあとちょっと、何かが違ってたら役者やめてましたね。
――『カーネーション』が初めての朝ドラ出演で、同時に初めてのテレビドラマ出演でもあったと。いかがでしたか。
湯浅 その頃、僕は舞台であまり変な緊張しなくなって、「舞台の長台詞に比べたらドラマは台詞も少ないし、いけるんちゃうかな」と思ってたんですが、めちゃくちゃ緊張しました。まず、稽古がないことに戸惑いました。舞台の場合、稽古を積み重ねることで役が自分の中に入ってくるし自信もついてくるんですが、ドラマはリハーサルだけやって「じゃあ本番」となるので。
――尾野真千子さん演じる主人公・糸子にとって最初の修行の場となる「桝谷パッチ店」の先輩職人・田中役を演じられました。演出から何か演技指導はありましたか?
湯浅 田中とほぼ同期でパッチ屋に入った岡村という職人がいて、田中と岡村は「どっちが先輩か」でしょっちゅういがみ合ってるという設定でした。僕は怒るのが得意やないので、ちょっと前に「はじめまして」と挨拶した役者さんと「用意、スタート」であんなに顔を近づけて怒鳴り合うというのが難しくて。「いきなりこんな芝居すんねんな……」と思いながら、めちゃめちゃ無理して怒ってましたね。