「元彼をボコボコにするため」から始まったボディビルダーの道

「私はダイエット目的とかじゃなくて、当時付き合っていた彼をボコボコにするためでして。たぶん珍しいパターンだと思うんですけど(笑)」

マッスルおりんりんさん

 こう語るのは、わずか5年でプロボディビルダーになったマッスルおりんりんさんだ。元彼への復讐心から始めた筋トレが、人生を大きく変える転機となった。

「50キロのバーベルに負けたらあいつに負けてるのと一緒や」

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 おりんりんさんがトレーニングを始めたきっかけは、モラハラ気質の元彼への不満だった。当初は「ボクシングかキックボクシングを習えるところを探してた」というが、コストの問題から24時間ジムに入会。そこで出会ったのが「デッドリフト」という種目だった。

筋トレを続けるうちに変化した意識

「背中って大きい筋肉なので、初心者の女性でもわりとすぐ重さを持てるんですよ。で、何回かやっていくうちに50キロを上げられるようになって。それが最初、『あいつの体重を越えた!』っていう喜びになったんですね」

 しかし、筋トレを続けるうちに、おりんりんさんの意識は変化していく。

「筋トレって孤独ではあるんですけど、それによって1人の時間ができて。『この1時間のうちにこの種目をやって今日までにこれを終わらせないと』と、計画を立てて追い込んでいたので、携帯を見る暇もなくなっていきまして」

トレーニングを始める前のマッスルおりんりんさん

 そうして自分の時間を大切にするようになり、やがて元彼との関係も終わりを告げた。

 現在のおりんりんさんは、身長161センチで体重66キロ。トレーニング前と比べて20キロ以上増量し、体つきも大きく変わった。しかし、それに伴う悩みも少なくない。

「増量中と減量中でも全然サイズが違いますし。本当は服が好きなんで服にお金をかけたいんですけど、まず、着られる洋服が少なくて。パンツだったら、ウエストに合わせるとお尻が入らないし、お尻に合わせるとウエストがダボダボになっちゃって」

 また、ボディビルダーならではの食生活も、一般的なものとはほど遠いものだという。

「今の彼とは外食したことがなくて、いつも時間になったら公園でお弁当広げて一緒に食べてます(笑)。外食は年に1、2回するかどうかですね」

 それでも、おりんりんさんはボディビルを「芸術に近い」と表現する。「『ああ、こんなに筋肉ってきれいなんや』って感じると同時に、どれだけの時間トレーニングをしてきたのかなと、その肉体からストーリーを想像するのも楽しい」のだという。

 元彼への復讐心から始まったボディビルの道。それは今や、おりんりんさんにとってかけがえのない情熱となっている。

写真=平松市聖/文藝春秋

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