今回は『高校生無頼控 突きのムラマサ』を取り上げる。前回の『~無頼控』の続編だ。
前作と同じく、過激派活動家の兄を追って故郷の鹿児島を発った高校生「ムラマサ」こと村木正人の活躍が描かれる。ただ、そのテイストは大きく異なっていた。
その要因の第一は、主演が沖雅也から大門正明に変更されていることだ。
沖雅也は都会的でシャープなルックスの持ち主であるのに対して、大門は素朴で泥臭い。そのため、前作同様に、ムラマサが会う女性を次々にメロメロにさせていく場面や、頭脳戦を展開して金儲けを企む場面も出てくるのだが、そのいずれもがシックリ来ない。ここは、沖雅也だからこそ説得力があったといえる。
ただその一方で、全裸に防具だけを装着して河原で竹刀の素振りをしたり、ピンク映画館の客席でクチャクチャ音を立ててパンを食べたり――といったワイルドな場面は実にピッタリ。「スナックって顔か! お前は立ち食いだ!」と言われても気にせずに学ラン姿でスナックに入店するような、バンカラなムラマサ像を新たに構築していた。
もう一つ、前作との違いをもたらした要因がある。それは、脚本だ。前作は佐々木守、足立正生という前衛性の強い面々が担当。そのため、話がどこに向かうか全く見えない、シュールな作りになっていた。
一方、本作は原作者の小池一夫自身が脚本を担当しており、構成はキッチリしている。ある町にやってきたムラマサが騒動を起こし、問題を解決し、去っていく。そんな、ヒーローものの基本的な流れを忠実に守っているのだ。
竹刀を使ったアクション場面も前作よりはるかに多く、これが大門のムラマサは様になっていた。そうなるとオーソドックスに楽しめる作品なのか――と思いきや、そう甘くはない。前作に負けず劣らずの、掴みどころがない印象を与えているのである。
それは、撮影を市原康至が担当していることが大きい。虚無感すら漂うような抒情的な画作りを得意とする市原の特性は本作でも顕著。これに佐藤允彦によるムーディなBGMが合わさることで、全編を通してアンニュイな雰囲気に映像が包まれることに。そのため、バンカラな主人公や無骨な物語展開とのギャップが凄まじいのである。
終盤にこれが効果を発揮する場面が訪れるから、本作は侮れない。それはムラマサと教師(ひし美ゆり子)の濡れ場。冬枯れの景色の中で裸体を重ね合う男女の姿は、ヨーロッパ映画的なリリカルさを醸しており、これが小池一夫原作だということを忘れさせるほどの美しさであった。
