1972年(88分)/東宝/3300円(税込)

 一九七〇年代の前半は、劇画を原作にした映画が隆盛だった。「子連れ狼」「女囚さそり」といった大ヒットシリーズを筆頭に、『同棲時代』『愛と誠』など、邦画各社ともに次々と製作している。

 今回取り上げる『高校生無頼控』も、そんな時期の一本。「子連れ狼」の小池一夫が原作だ。そして、小池原作ならではの豪快かつ強引な物語・キャラクター設定と、この時期の東宝ならではの作りの緩さが合わさったことで、捉えどころのない作品となった。

 主人公は鹿児島の高校生で通称「ムラマサ」こと村木正人(沖雅也)。学生運動の過激派である兄(岸田森)が逮捕されたことを気に病んだ母が自殺したことで、ムラマサは兄に復讐すべく東京へ向かうところから物語は始まる。

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 小池原作でこの設定なら、「子連れ狼」のようなハードな復讐譚を期待したくなる。が、全くそうではない。シュールな喜劇映画なのだ。

 たとえば物語展開。兄の保釈金を東京への道中で稼ごうと思い立ったムラマサが行く先々で巻き起こす騒動が、物語の主軸になっている。問題なのは稼ぐ手段で、公園で交わる不倫カップルを撮影して口止め料を取ろうとするなど、実に小ズルい。

 しかも、困ったことがあったら全てセックスで解決するという無茶さも大きな特徴。わずか九十分弱の上映時間の間に五名もの女性と交わっている。しかも、その全てに妖艶なエロスはなく、ブランコに揺られながら対面座位で交わるなど、とにかく緩い。

 さらにムラマサの設定も珍妙だ。「俺の食事をひっくり返したのは、オジサンたちなんだわん」「いやあ、いいこと言うんだわん」といった具合に、腑抜けた口調で「~だわん」という語尾を何度も使うため変に可愛らしく、示現流の使い手という設定とのギャップが強烈になっている。

 加えて、若い俳優陣の演技はことごとく拙い。構成面でも個々のエピソードに描き方のメリハリはなく平板で、演出も同様だ。普通なら大きなマイナスポイントだらけだが、本作の場合は不思議なことに、魅力として昇華されている。というのも、こうした徹底した緩さがムラマサの行き当たりばったりさと妙にマッチして、話がどこにどう向かうのか全く見えないカオスさを巻き起こしているのである。

 本作はプロデューサーに寺山修司と赤塚不二夫が名を連ね、脚本も前衛性を特色とする佐々木守と足立正生が担っていることを踏まえると、このカオスは偶発的ではなく、意図的なものだと考えられる。

 この時代の才能が結集した結果、途方もなくシュールな混沌が生み出されたのだ。