脚本家・高田宏治氏のインタビュー本を作成するため、彼の作品をできる限り再確認してきた。その作業を通して驚かされるのは、脚色する際のあまりの大胆さだ。

 芸者の悲劇を最後は女衒とやくざの抗争にまで結びつけた『陽暉楼』。終盤の展開をオリジナルのロードムービーにした『野性の証明』。そして、原作と同じなのはタイトルだけという何もかもを創作した『ドーベルマン刑事』『極道の妻たち』――。よくぞこれだけ思いきったアレンジをしたものだと感心する。

 原作がなくとも大胆な「脚色」をほどこすこともある。歴史劇だ。羽柴秀吉、明智光秀が一人の女性をめぐり三角関係になったり、光秀が自ら本能寺に乗り込んで信長と一騎打ちしたりするテレビスペシャル『太閤記』。実は家光は春日局と家康の間にできた子どもだったという映画『女帝 春日局』。「結局はこうなった」という史実の結末は順守しつつも、その背景や経緯に関しては縦横無尽に創作を付け加えているのである。

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 今回取り上げる『江戸城大乱』も、そんな一本だ。

1991年(113分)/東映/動画配信サービスにて配信中

 物語は、四代将軍の家綱(金田賢一)の後継者争いを軸に展開する。次期将軍を巡る抗争をやくざの跡目争いになぞらえて、暴力と策謀の渦巻く政治劇として描くアプローチは、『柳生一族の陰謀』以降の日下部五朗プロデューサーの十八番。本作も、大老・酒井忠清(松方弘樹)を筆頭に、幕閣や御三家の野心が激しく入り乱れる展開になっている。しかも各陣営のリーダーを演じる俳優陣が、松方に加えて金子信雄、加藤武と、『仁義なき戦い』で抗争の主要人物をやった面々。それだけに、この題材でも決してかしこまった感はなく、やくざ映画さながらの下世話な楽しさが全編に通底している。

 そして、ここでも高田らしい脚色が効いている。

 後に大老に上り詰めることになる堀田正俊(三浦友和)が剣豪的なポジションで登場。忠清の実動部隊としてさまざまなダーティワークを裏で行うのには、まず驚かされた。が、なんといっても驚愕はラストに明かされる「真実」だ。

 劇中、忠清は綱吉(坂上忍)の将軍就任だけは執拗なまでに阻止しようとし続ける。それは、なぜか――。

 実は忠清は若い頃に家光の側室・桂昌院(十朱幸代)と恋仲にあり、その際に身ごもったのが綱吉だったのだ。

 そして忠清は、実子を将軍につかせる野心ではなく、徳川の血を繋ぐ筋道に生きたのだ。高慢な野心家に見えた男の生真面目な裏側が明らかになったことで、ただの狂騒劇ではない、人間ドラマとして引き立つことになった。