第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『遠い山なみの光』。原作は、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの同名小説。1950年代の長崎と1980年代のイギリスを舞台に、悦子、佐知子、ニキという女たちの人生と噓が交錯する。悦子の義父を演じた三浦友和さんにカンヌでうかがったインタビューを『週刊文春WOMAN2025夏号』より、一部編集の上ご紹介します。

カンヌでフォトコールに応える三浦さん ©Kazuko Wakayama

三浦さんが生まれた年の長崎が舞台

「やっぱりヨーロッパの三大映画祭は、みんなが行きたいと思っている場所。だからって目指しても来られるわけではない。やはり特別ですね。嬉しいです」

 俳優となって53年。日本が誇る名優、三浦友和が、初めてカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩いた。

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 実は三浦さんの出演作がカンヌで上映されたことは『アウトレイジ』(監督:北野武)などいくつかあるが、自身の来場はこれが初めて。ベネチア、カンヌ、ベルリンの三大映画祭への参加も初めてだ。

 カンヌ映画祭「ある視点」部門で上映された『遠い山なみの光』(監督:石川慶)は、カズオ・イシグロの長編デビュー小説の映画化で、昭和27年(1952年)の長崎が舞台。三浦さんが生まれた年だ。三浦さん演じる緒方は主人公・悦子(広瀬すず)の義父で、戦前は小学校の校長で人望もあったが、息子(松下洸平)や学生たちを戦争に送り出した責任を問われ、葛藤を抱えている。

 一方で原爆で全てを失った悦子を実の娘のように思いやる。その重層的な人物像は、幾つものレイヤーがある物語をさらに奥深くしている。

三浦さんはカンヌで取材に応えてくれた 撮影:石津文子

「緒方は僕の父親より、上の世代。戦前、軍国主義の教育をしてきた側ですから、戦後7年経ち社会の変化を目の当たりにし己の過ちには気づかされている。その自責といくらか残っている自己肯定の狭間で揺れ動いている。反核、反戦を訴えつつ、こういう幅のある描き方は素晴らしいと思います」