『東京物語』の父親と重なる役どころ
中年期以降、三浦さんは清潔なイメージを逆手に取るような役を次々と演じて再び映画、ドラマを支える存在となる。まさに時代が三浦さんに追いついたのだ。映画『アウトレイジ』(2010)、『アウトレイジ・ビヨンド』(2012)では金に汚い暴力団幹部、ドラマ「流星の絆」(2008)では裏の顔のある刑事、キネマ旬報助演男優賞を受賞した『ケイコ 目を澄ませて』(2022)では死期を悟ったボクシングジム会長など、訳ありの人物を絶妙に演じている。
一切スキャンダルがない三浦さんは長く理想の夫像だが、『遠い山なみの光』の老境に人生を振り返る主人公の義父役は、小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953)の笠智衆を彷彿とさせる。
「時代設定も同じ頃ですから、『東京物語』の父親と重なるものはありました。緒方は、息子がいるという設定だったのもあって、その葛藤を僕はとても理解できましたね。松下洸平君が演じる息子が出征する時、軍国主義の教育者だった緒方は万歳三唱で送り出していたんです。でも帰ってきた息子は戦場で指を4本なくしており、父のことを許せずにいる。そのことに悩んでいるけれど、一方でプライドもある。そういうところが非常に難しかったですね」
体が動けてセリフが頭に入る限りはこの仕事を続けていたい
人生の黄昏を演じる一方で、枯れ過ぎていないのもまた三浦さんの魅力だ。ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」での久しぶりの恋心に戸惑う医師・成瀬は、小泉今日子演じるヒロインの千明でなくとも、心が揺さぶられるはず。73歳でロマンティック・コメディが似合う俳優が、世界中にどれほどいるだろうか?
「自分の実年齢、その前後くらいの役が来るといいなと思ったら、ちょうど成瀬の役をいただいて、とても面白かったですね。やっぱり若い役は若い人がやった方がいいんですよ。でもこの年齢になると、本当に亡くなる友達や先輩が増えてきて、間近に見ることも多くて、自分の場合も考えざるを得ません。
だけど、終活っていう言葉は嫌いなんですよね。終活って、年寄り向けに若い人が作った言葉じゃないかな。人生100年時代というけど100歳まで生きたとしてもたかが100年です。成人になった時から終活は始まっているというなら分かりますがね。生き方を変えようとか、そういうことも僕は個人的には嫌いですね。役者としては、体が動けてセリフが頭に入る限りはこの仕事を続けていたいし、オファーが来るだけのことを今後も残していかなきゃいけないと思っています」
◆忌野清志郎さんと同級生で音楽の道を志していた10代のころ、松田優作さんからかけられた言葉、相米慎二監督との出会い、夫婦で話す「老後」の生活など、インタビュー全文は『週刊文春WOMAN2025夏号』でお読みいただけます。
INFORMATION

『遠い山なみの光』
9月5日(金)TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー
出演:広瀬すず 二階堂ふみ 吉田 羊
カミラ アイコ 柴田理恵 渡辺大知 鈴木碧桜
松下洸平 / 三浦友和
監督・脚本・編集:石川 慶
原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)
配給:ギャガ
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公式サイト:https://gaga.ne.jp/yamanami/
