アメリカの若者にドキュメンタリーが大人気だ。そのイメージは「つまらない教育もの」から「クールで刺激的」に変わり、今や、若者向けメディアでHIPHOPやストリート・ファッションと並んで「必見のドキュメンタリー」が紹介される事態となっている。
この「ドキュメンタリー黄金期」とも言える人気は、劇場映画セールスにも現れている。2018年には、日本でも好評を博した『RBG 最強の85才』など、ジャンル別オールタイム興行収入TOP25に入るドキュメンタリーが4本も生まれた。
しかしながら、この黄金期を支える存在は、シアターではなく、気軽な視聴を可能とする定額制ストリーミング・サービスだ。最大手Netflixでは、政治経済から性、K-POP、大阪のたこ焼き屋まで、世界を股にかける多様なドキュメンタリーが並んでいる。
なかでも、若者にもっとも人気のあるジャンルが「実録犯罪」。正味、このジャンルはバズる。近ごろはドンデン返しが連発する派手なミステリ仕立てのものが多くて見やすいし、なにより、実話とは到底信じられない過激で奇妙な事件は人に話したくなる。そうして、若者を中心としたSNSユーザーが賛否両論を議論しあい、流行が生まれる状態がつづいているのだ。
たとえば近年「もっとも奇妙」と評される映画『白昼の誘拐劇』。これを観れば、あなただって開いた口が塞がらなくなるはずだ。
失踪から5日経っても誘拐とは考えなかった
『白昼の誘拐劇』は、ロリコン・サイコパスに洗脳された一家が二度も娘を誘拐された事件を振り返るドキュメンタリー。1時間半と短いものの、中身は怪奇のオンパレード状態……乱れた性と家庭崩壊、平和な田舎町の信仰、泥沼裁判劇、さらにはエイリアンまで登場してしまう。
舞台は1970年代のアイダホ州ポカッテロ、住人たちが玄関に鍵もかけないような平和な田舎町だ。主人公となるブロバーグ家は、花屋の父、専業主婦の母、3人の娘からなる中産階級家庭。絵に描いたような幸福な家族の崩壊は、ロバート・B・ベチトールド一家との出逢いによって始まる。お互い自営業で子どもたちの年ごろも同じだったため、二家族は意気投合して親密になった。そのなかで、ロバート、通称Bは、あきらかにブロバーグ家の長女ジャンに執着するようになった。
2年経ったある日、Bが自動車でジャンを乗馬に連れて行き、帰ってこなくなる。この時点で事件なわけだが、ジャンの両親は日が経っても通報しなかった。失踪から5日経ち、ようやくFBI捜査官がブロバーク家に到着するも、そのときですら夫妻は誘拐とは考えようとしなかったという。