最後に「マインドコントロール」の脅威。ドキュメンタリーのヒット後、被害者ジャン・ブロバーグは、複数のメディアで両親を擁護する声明を発表した。そのなかでは、父母も犠牲者であること、再発防止のために出演を決めた彼らへの尊敬、そして洗脳の脅威が語られている。
「虐待加害者の多くは身近な人間です。グルーミングは時間をかけて行われる。このことがもっと話されるべきなのです」(FoxNews にて。グルーミングとは性的虐待加害者が被害者を洗脳し手なずけること)
ドキュメンタリーブームの問題とリスク
残念ながら、『白昼の誘拐劇』がジャンの想いに応えられたかは疑わしい。The Atlantic は、映画は「奇妙な出来事の詰め合わせ」状態で、洗脳にまつわる描写がおろそかになっていると批判している。
じつは、ブームのなかでは、こうしたインパクト偏重を批判される人気ドキュメンタリーが相次いでいる。ビッグネームとしては、マイケル・ジャクソンの児童性的虐待を告発した『ネバーランドにさよならを』。ここで「恐ろしい虐待現場」として紹介された建物は、作中提示された年月にはまだ存在していなかった等、時系列に矛盾があることが明らかになった。ほかにも『邪悪な天才:ピザ配達人爆死事件の真相』『くすぐり』といった人気作の大袈裟な演出が事実や公平性に反すると指摘されている。
大量のニュースが高速供給される今日、映像ドキュメンタリーは「じっくり問題に向き合える媒体」として人気と信頼を獲得している。世の中がブームに沸くなかで、TIME Magazine は「政府の指導者すら“真実”を軽視する時代、民衆は本当に信じられる物語とつながりたいのだ」と説いた。しかしながら、派手で情緒的な演出がヒット要因となるストリーミング時代のドキュメンタリーにしても、見逃してはいけない問題とリスクを孕んでいるのではないだろうか?