今や世界的なスター選手となった、ドジャースの大谷翔平。そんな大谷と一対一で向き合い、取材を続けているのが、ベースボールジャーナリストの石田雄太氏だ。大谷は石田氏の取材に対して、どんな言葉を紡ぎ、どんな思いを語っているのか。

 ここでは、石田氏の著書『大谷翔平 野球翔年 I 日本編2013‐2018』(文春文庫)より一部を抜粋して紹介。2015年2月、当時の北海道日本ハムファイターズ監督・栗山英樹氏が大谷の紅白戦でのピッチングに苦言を呈した。その理由とは?(全2回の1回目/2回目に続く

大谷翔平選手 ©文藝春秋

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「よかったところはなし」苛立ちを見せた栗山監督

「オレ一人だけが納得いってないのかもしれないけど……」

 大谷のピッチングについて訊かれた栗山英樹監督は、自嘲気味に笑いながらも厳しい口調でこう続けた。

「よかったところはなし。調整のつもりなら、100年早い。今だからいいとか、最初だからいいとか、そんなことはない。何のために1月からブルペンに入って、バッターに投げてきたのか。結果を出すために準備をして、ガムシャラに、必死に、バッターを抑えてやるという、そういう積み重ねを大事にしてくれないと……」

 最初のイニングはワインドアップで投げて、次のイニングでは先頭バッターからセットポジションで投げた。大谷は「どっちもやろうと思っていた」と予定通りだったことを強調したが、栗山監督の目にはそんな大谷がもどかしく映った。

「試していいよ。セットでも振りかぶるのでも、こういうことをやってみたいというのは大事。でも実戦形式なんだから、こうしたい、これをやりたいという向き合いが自分じゃなくて、相手をやっつけたい、絶対に負けないというベースでなくちゃ……アイツ、開幕をやりたいと言ってるんでしょ? だったら、それを自分で掴んでくれということ。今日が紅白戦だという気持ちが少しでもあるなら考え違い。実績のある選手ならともかく、まだその段階ではない」

 最後には大谷の開幕投手について、栗山監督は「もう一回、白紙だな、すべて」と言った。期待の裏返し、愛のムチ、親心ゆえといった想いから、大谷には敢えて厳しい言葉を発することが多い指揮官ではあるが、この日ばかりはそれだけではない苛立ちや歯痒さを感じさせた。

 いったい何を焦っているのか。

 まだ第2クールじゃないか、初めての実戦とはいえ紅白戦、そんなにムキになることはない……大谷でなくとも、そう感じるかもしれない。しかし、この指揮官の感情の爆発には、じつは伏線がある。