底知れぬ20歳としたたかな指揮官の「せめぎあい」

 ここで話をもう一度、2015年1月の栗山監督に戻すと、この「言い訳になるから説明する必要はないし、結果で示すしかない」という大谷のコメントを知って、栗山監督は怒っていたというわけだ。

「だから、そうやって何も言わなかったことを正当化できるのは去年、結果的に何もなかったからでしょ。実際、去年だってすべてが順風満帆だったわけじゃない。

 あの投げ方じゃ壊れるってことを翔平も意識してくれないと……20歳だから勘違いしてくれていいんだけど、これだけ騒がれると、ちゃんと言ってくれる人は少なくなってくるからね。少なくともオレはそういうことをちゃんと言わなきゃと思ってるよ」

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栗山英樹氏 ©文藝春秋

 仰ぎ見る山の頂きは同じでも、選ぶルートは同じではない。勘違いしてもいいと栗山監督は口にしたが、実際の大谷に浮ついたところはなく、野球に対してまっすぐ向き合っていることにも疑いの余地はない。

 キャンプ中も休みに練習することを「休日返上」と表現されていたが、そんな意識は欠片もない。「遊びですから。バッティングセンターに行ってるようなものですよ」とニヤッと笑う。

 ただ、一日一日、野球に対する自信が積み重なっていく中で、余裕を見せてしまうこともあれば、違う方向に突っ走ってしまう危惧もある。栗山監督がメディアを通じて怒ってみせたり、危機感を煽ろうとするのは、ときに暴れ馬と化すサラブレッドの手綱を緩めるわけにはいかないからだ。

 大谷がこのまま20歳の開幕投手に収まるのか。それとも栗山監督が何らかの理由でブレーキをかけるのか─調整を「音合わせ」と表現できる底知れぬ20歳と、知略に長けたしたたかな指揮官のせめぎ合いは、すでに始まっている。

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