1971年(87分)/東映/3080円(税込)

 ただ今インタビュー本を作成中の脚本家・高田宏治氏は約半世紀にわたって東映京都を中心に活躍してきた。

 東映作品というと、パターン化されたヒーローものが多い印象がある。だが、誰よりもそこで長く、そして数多くの作品を送り出してきた高田は、実はパターンから大きく外れた作品も書いている。

 主人公が途中で死んで、それでもなお物語が進み続ける『山口組外伝 九州進攻作戦』、主人公がむしろ悪で相手役が善側に回る『激突!殺人拳』、唐突な悲劇で終わる『極道の妻たち』――。こうした作品の脚本を書く上で、高田は緻密に計算されたプロットに基づくことはせず、登場人物たちをその場その場で動かしながら、それに合わせて物語を構築していった。

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 今回取り上げる『懲役太郎 まむしの兄弟』は、そんな高田だからこその作品といえる。

 本作の主人公はチンピラの政(菅原文太)と、彼を兄貴分と慕う勝(川地民夫)。この二人、とにかく頭が悪い。一切の学も教養もないのだが、その度合いが映画史上全体でも図抜けているのだ。

 とにかく後先を考えずに突き進むため、全ての行動が行き当たりばったり。本作が凄いのは、そんな二人を定型の物語の中に入れ込んでいないことだ。物語の冒頭から、二人は本能のおもむくまま行きたい所へ行き、遊びたいように遊ぶ。そして行く先々でトラブルに巻き込まれ、大暴れする。彼らは唐突にフランス料理屋、ソープランド、そして賭場を巡る。飲む、打つ、買う、と、根源的な欲望に正直に動くのみなのである。

 始まってから半分近くは、二人の奔放過ぎる行状をひたすら追いながら展開していく。そのため、話はどこへ転がっていくかわからない。驚くほど行き当たりばったりだ。

 中盤から人情味のあるエピソードも出てくる。だが、貧しい暮らしをしながら幼い弟と妹を育てる少女に金を恵もうとした政の、そのための金は馴染みのソープ嬢から奪ったもの。ロクでもないのだ。それでいて、「死んだかてなコイツらからエサもろうたらアカン!」と、少女たちに親切にしてくれる婦警を追い出す。

 思いつきだけで動くのは、終盤になっても変わらない。二人は大組織の幹部(安藤昇)にケンカを売って返り討ちに遭い、さらに貫禄負けする。どうやったら勝てるか――。それで行き着いた結論は、彼に負けないだけの大きな刺青を背中に彫ることだった。

 これだけ奔放な主人公像を作り上げたことも凄いが、その行動を作品世界にそのまま放り出した構成もまた凄い。

 高田の大胆不敵さに恐れ入るしかない一本である。