今回は『仁義なき戦い』を取り上げる。
日本映画史に燦然と輝く金字塔と言える傑作である。
舞台は広島の呉。戦後の焼け跡に始まり、復興期から高度成長期にかけてのヤクザたちの人間模様が描かれていく。暴力しか生きる術のなかった若者たちが、やがて組織の拡大につれて互いに抗争を始め、さらに狡猾な親分の策略により次々と命を落とす。
笠原和夫の脚本が描く綿密な人間ドラマを深作欣二監督が荒々しいタッチで切り取り、その中で俳優たちが躍動。世界の映画史上でも類を見ない強烈なエネルギーが画面から放たれまくることになった。
先日、4KリマスターされたBlu-rayで観て、思ったことがある。そこに映っている面々は揃いも揃ってエネルギッシュなのに、そのほとんどがここ数年で亡くなってしまっている――。製作から半世紀近く経っているので当然といえるのだが、訃報があまりに相次いだため、そのことを改めて痛感してしまった。
主人公の広能を演じた菅原文太(二〇一四年没)。広能と刑務所で義兄弟の契りを結ぶ、義を貫く武闘派・若杉を演じた梅宮辰夫(一九年没)。若杉を陥れる神原を演じた川地民夫(一八年没)。親分を追い落として自ら頂点に立とうとする坂井を演じた松方弘樹(一七年没)。坂井と反目する新開を演じた三上真一郎(一八年没)。新開の盟友・矢野を演じた曽根晴美(一六年没)。新開の下で坂井をつけ狙う若者・有田を演じた渡瀬恒彦(一七年没)。こう挙げてみると、この数年で抗争の主要人物を演じた役者たちが次々といなくなったと思い知らされる。
役者だけではない。既に亡くなっている笠原と深作に加え、このパワフルな世界を構築したスタッフたちも、だ。
めまぐるしく動き回るカメラワークにより生々しい暴力の世界を映し出した撮影監督の吉田貞次は一八年に百歳の大往生を遂げた。そして、この一月。猛烈なアクションの数々を作り上げてきた殺陣師の上野隆三まで――。
東映京都撮影所では、アクションシーンは監督ではなく殺陣師が創作する。本作も例外ではない。相手を銃殺する時に緊張で手が固まり足元がおぼつかなくなるリアルな動き、実際の京都駅の山陰本線ホームで行われた壮絶な新開刺殺シーン。その動きの指導と――もちろん、行政の許可はまず下りないから無許可のゲリラで行われる――ロケ撮影の段取り。それらは上野の発想があってのものだった。
という本稿を書いている最中に、日下部五朗プロデューサーの訃報が届いた。
こんなに熱い映画なのに、観ていてとても寂しくなる。