これまで、筆者は「撮影所時代の映画や時代劇作り」の実像を書き留めるべく、数多くの映画・時代劇の関係者に取材してきた。その大部分は著作などに反映できているが、実はまだ表に出せていないインタビューも少なくない。
そこでこの八月から、「note」というサイトでそうした未発表インタビューを連載することにした。noteとは個人的に記事を発信できるサイトで、記事ごとに値段設定できるのが大きな特徴だ。週ごとに異なるインタビュイーが登場しており、毎月第一週はスタントマンの草分け・宍戸大全。第二週はNHKで『独眼竜政宗』など幾多の大河ドラマの演出をしてきた吉村芳之ディレクター。そして第三週は小野田嘉幹監督だ。
小野田監督にはまだ筆者が大学院生だった二〇〇四年にうかがっている。『鬼平犯科帳』を初代松本白鸚版から二代目中村吉右衛門版まで、四代にわたってメイン演出を担ってきた監督だが、そのキャリアは新東宝で始まる。
そこで今回は、小野田監督の新東宝時代の傑作『裸女と殺人迷路(カスバ)』を取り上げる。
舞台は城北新地の歓楽街。路地が迷路のように入り組んだ一帯は「カスバ」と呼ばれて警察も介入しにくく、悪党たちが根城にしていた。
小野田監督は後に『鬼平犯科帳』を撮る際も「アウトローの滅びの美学を描きたい」と、鬼平より盗賊たちのドラマに焦点を当てていた。本作も、そうした小野田のドラマツルギーに貫かれている。
それぞれに事情を抱えた悪党たちがプロ野球の売上金の強奪計画に参加。欲望と策謀の渦の中で互いに争い、破滅していく様が描かれる。多くの新東宝作品と同じく扇情的なタイトルでキワモノと思われがちだが、極めて真っ当なハードボイルド作品だ。
それぞれの悪党たちの描き方も際立っている。特に見事なのは、飄々としながらもここ一番で見せる鋭い眼差しに本物の悪党としての凄みを滲ませる清水将夫と、全身から暴力性を放つ若き丹波哲郎。この対極的な二人を軸に、破滅へ向かう人間模様がスリリングに展開する。また、小野田は黒澤明が新東宝で『野良犬』を撮った際に助監督だったのだが、さすが黒澤門下生。クライマックスでの暴風雨がド迫力で、効果的だった。
本作を含めて、新東宝時代の小野田がどのような想いでこうした作品に臨んでいたかの話も聞いているので、追ってnoteに掲載する。
ちなみに本連載も週刊文春では今回までで、次回以降はnoteに移行する。毎月第四週に公開のためペースは変わるが、引き続きご愛顧いただけたら、ありがたい。



