1960年(82分)/ハピネット/4180円(税込)

 旧作邦画のソフト化に関わる各レーベルは、配信全盛の現状において厳しい状況にある。それでも、そうした中で決して折れることなく、コレクターズアイテムに足るような充実したパッケージ作りに勤しむレーベルも少なくないことは、前回述べた通りだ。

 その名の通り新東宝作品を出し続ける「新東宝キネマノスタルジア」も、奮闘中のレーベルの一つだ。新東宝はただでさえ旧作邦画でもニッチな存在。その上、そんな新東宝であまり知られていない作品も含め、このレーベルは熱心にDVD化している。そのため、かなり厳しい戦いをしていると考えられる。だが、たとえ商品として難しそうな作品であっても、パッケージや画質も含めて手抜きはない。

 今回取り上げる『太陽と血と砂』は、「~ノスタルジア」が昨年DVD化している。

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 新東宝といえば、怪談映画、戦争映画、アクション映画、エログロ映画といった、ジャンルが明確な娯楽作品のイメージが強い。だが、本作はそうではない。真夏の海辺を舞台に、若者たちの破滅的な姿を描いた本作は、同時期に撮られた大島渚監督などによる松竹ヌーベルバーグ作品や、その少し前に流行した日活の太陽族映画のような、文芸的な匂いのする青春映画になっている。この若く瑞々しい感じは、新東宝では実に珍しい。

 物語は、逗子の海で蹂躙された挙句に自ら命を絶った姉(池内淳子)の復讐に燃える青年・史郎(松原緑郎)の姿を追いながら展開していく。

 犯人は大会社の社長の息子らボンボンの若者三人組だと判明、警察はまるで役に立たないため、血気に逸る史郎は三人組に襲いかかる。だが、相手はお咎めなし。史郎だけが傷害罪で少年院に収監されてしまった。ただ一人の肉親である母親も収監中に亡くした史郎は、出所後はアウトローの世界に身を投じる。

 前半は、史郎たちの身に降りかかる理不尽がひたすら描かれる。だが、陰気で重苦しい印象は全くない。アクションの名手である小野田嘉幹監督らしい切れ味の良い演出リズムが海辺のギラつく太陽によく合い、クールかつスピーディに展開していく。

 俳優陣では、主演の松原が健闘。華はないが内省的な暗さと破滅的な危うさを醸す姿が、どこまでも純粋な史郎にピッタリだった。そのため、恋する女性(三ツ矢歌子)が仇の妹と知って葛藤しつつも復讐の狂気に囚われていく、後半の展開に引き込まれる。

 こうした、名画座でもなかなか観られない佳作に出会えるのも、レーベルが熱心に活動しているからだ。少しでもその支えとなれるよう、今後も紹介していきたい。