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連載春日太一の木曜邦画劇場

大虐殺と復讐、サスペンスとラブロマンス。過不足なし!――春日太一の木曜邦画劇場

『大虐殺』

2021/06/22
1960年(94分)/新東宝/4180円(税込)

 近年、旧作邦画は配信だけでなくDVD化も盛んになってきた。「えっ、この作品がついに!」ということも多々あり、本連載にとってはありがたい限りだ。厳しい御時世とは思うが、それでも果断に販売してくれる各レーベルには心よりの敬意を表したい。

「新東宝キネマノスタルジア」では、新東宝のマニアックな作品を次々とDVD化してくれている。以前に出ている作品を新たなカッコいいジャケットに新装してくれているのも嬉しいが、何よりも初DVD化となる作品を続々と出しているのが最高だ。

 今回取り上げる『大虐殺』も、そんな一本。長らくDVD化を待ち焦がれていて、この六月についに同レーベルから発売されたのだ。

 新東宝といえば『明治天皇と日露大戦争』『皇室と戦争とわが民族』といった、復古的な愛国精神を強く打ち出した戦争映画を多く作ってきた。が、本作はその反対。関東大震災後の戒厳令下における官憲による反政府勢力への粛清が生々しく描かれている。

 映画興行のためなら思想の左右に関係なく題材にする。それが新東宝イズムなのだ。

 序盤から、タイトルの通り「大虐殺」が連続する。震災中のリンチ。一か所に集められた多数の社会主義者、無政府主義者たちへの容赦ない銃殺。甘粕大尉による大杉栄・伊藤野枝の殺害――。阿鼻叫喚が開始三十分にわたり延々と映し出される。

 甘粕に扮した沼田曜一がとにかく強烈だ。表情は冷酷でありながら目だけは異様にギラつくその演技により、過度な愛国心のために反対勢力の人命など全く意に介さない狂信性を完璧に表現していた。

 冷たく暗い取調室と、そこでの壮絶な拷問。白黒だからこそのシャープな映像とあいまって、その恐ろしい空気が重苦しくのしかかってくる。小森白監督の演出も見事だ。

 物語の中盤からは、大杉の門下生・古川(天知茂)の姿を追っている。大杉の無念を晴らさんとする古川たちは、テロ行為に走る。そこからは、天知の独壇場になっていた。

 資金集めのために銀行員を襲う際に見せる殺気に満ちた表情と、目的のためとはいえ罪なき者を殺めてしまったことへの悔恨の表情。テロ計画を立てる時に鋭く勇ましい顔を見せたかと思えば、失敗してやけ酒をあおる時は力なくニヒルに笑う――。頼もしさと情けなさの間を往還し続ける古川の繊細な感情を、千変万化の表情をもって表現する天知の名演技に痺れた。

 しかも、ただの権力批判だけでなくサスペンスやラブロマンスの要素も過不足ない。

 これが自宅で気軽に何度も観られるのだから、素敵だ。

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