今年は池波正太郎生誕百年のアニバーサリーになる。
池波作品といえば、季節感や料理などを通じた江戸情緒で語られがちだが、アクションの魅力も忘れてはならない。仕掛人の殺し、剣豪同士の決闘、盗賊たちへの捕物――。これらの緊迫感あふれる描写が、読者の心を捉えてきた。
池波原作が映像作品においても長く重宝されてきたのは、そうした魅力がちゃんと描かれていたからだ。小野田嘉幹(よしき)監督は、その功労者の一人。小野田は新東宝で身につけた切れ味鋭いアクション演出を存分に発揮して、『鬼平犯科帳』『仕掛人藤枝梅安』『剣客商売』といった主要シリーズでメイン監督を務めてきた。
今回取り上げる『女奴隷船』は、新東宝時代の小野田演出の魅力を存分に楽しめる作品だ。
舞台は太平洋戦争末期の南方戦線。大本営に機密事項を伝えるべく、須川中尉(菅原文太)が前線基地を飛び立つところから物語は始まる。だが、その輸送機は敵により撃墜、須川は謎の貨物船に救出される。その貨物船は、日本人女性たちを拉致して上海に売りさばくための奴隷船だった。須川は彼女たちを救うために乗組員と闘う――。
荒唐無稽に思える設定なので、一つ間違うとリアリティを失い、作品に全く入れない危険性もある。だが、そこは小野田監督作品なので心配無用だ。特撮を駆使した航空戦に、甲板上での乱闘。冒頭から小気味いいアクションを交えつつ、テンポよく展開される。そのため、ワクワクと楽しんでいるうちに設定や人物関係が自然と入ってきて、一気に引き込まれていくのだ。
そこからも、本作の流れは止まることがない。襲い来る海賊との乱闘。女性たちの悲鳴と海賊の歌声が交錯する盛大な宴会。須川と女性たちによるクーデター。裏切りによる形勢逆転。海賊アジトでの奴隷市。そして女性たちが自ら銃をとって繰り広げられる、壮大なスケールの銃撃戦。
まさに、全編が見せ場だ。しかも小野田のスリリングかつド迫力な演出により、ラストまでダレる場が一切ない。
登場人物も魅力的だ。海賊の首領を豪快かつクールに演じる丹波哲郎。セクシーな衣装をまといながら闘う奴隷船のリーダー役の三原葉子。菅原文太の真っすぐな正義漢ぶり。加えて、ド派手なルックスをした海賊団も強烈だ。まるで漫画『ワンピース』からそのまま飛び出してきたような個性的なキャラクターたちが、所狭しと暴れまくる。
アクションの才能を小野田は後にテレビ時代劇で発揮し、池波時代劇で一時代を築く。だが、本作のような『ワンピース』級のスケールの映画も、また撮ってほしかった。