今回も引き続き、七回忌となる夏八木勲の特集である。
厳(いか)つい面相に隆々たる肉体、そして知性と狂気を併せ持つギラギラしつつも鋭い眼差し――そうした夏八木の魅力は、人間としての頼もしさを役柄に与えてきた。が、それだけに悪役を演じると厄介なことになる。その特徴のまま敵に回るため、強大な相手として映し出されるからだ。
だからこそ、夏八木が悪役で出てくる作品には、いつもスリリングな迫力がもたらされることになるのである。
今回取り上げる時代劇『必殺仕掛人 春雪仕掛針』は、夏八木の悪役としての恐ろしさを堪能できる一本である。
表では鍼医者として勤(いそ)しみながら、裏では同じ針を使って人を殺して金を受け取る――。そんな「仕掛人」藤枝梅安(緒形拳)の活躍を描いた、池波正太郎原作の人気テレビシリーズの映画化作品だ。
通常は元締の半右衛門(山村聰)から依頼を受けて梅安がターゲットに迫っていく様が描かれるのだが、本作はそこが異なっている。ここでの梅安はむしろ狙われる側にいるといえる。そして、梅安を罠にかけて危機に陥れるのが、夏八木の演じる盗賊・勝四郎。
勝四郎は頭領・お千代(岩下志麻)の情夫だった。彼女に足を洗わせたい育ての親・小兵衛(花沢徳衛)の半右衛門への依頼で、梅安は勝四郎一味への「仕掛け」に動く。
序盤は一味の凄腕の用心棒・三上(竜崎勝)との死闘がサスペンスフルに描かれ、後半はいよいよ勝四郎との対峙となっていく。
押し入った先では片っ端から店の人間を血祭にあげ、表情一つ動かさない。しかもただ残虐なだけではなく智謀にも長けていて、自らの命が狙われていることを知ると、逆に計略を張り巡らせて梅安を追い込んでいく。そんな勝四郎は夏八木にピッタリ。「梅安も勝てないのでは――」と思わせる悪役として立ちはだかる姿に説得力を与えていた。
お千代は実は梅安とかつて恋仲にあった。そのことを利用され罠にかけられた梅安は「仕掛け」に失敗、囚われの身となる。梅安を助けた小兵衛を勝四郎は無惨に斬り殺す。この時の夏八木の表情から放たれる殺気がまた恐ろしい。
こうした憎々しさが、終盤の展開のカタルシスに繋がる。たとえばお千代を殺して頭領の座を奪おうとするも、その魂胆を見透かされて侮蔑の言葉を浴びせられる場面。あるいは、半右衛門の罠にはまっていく様。それまでの夏八木の悪役としての様に凄味があったからこそ、それを上回っていく面々の姿が実に痛快なものになっていったのだ。
味方で頼もしく、敵で憎らしい。これぞ役者、である。