今回も七回忌となる夏八木勲を偲んで、その魅力について改めて検証していく。
一九六六年に東映京都の『骨までしゃぶる』で映画デビューした夏八木は、同年初主演も果たしている。それを導いたのが五社英雄。当時、フジテレビのディレクターでありながら、映画も監督していた。
型にはまらない激しいアクションを時代劇に求めていた五社にとって、野性味あふれる荒々しさを放つ若き日の夏八木は格好の素材であった。そして撮られた作品が『牙狼之介』。夏八木扮する正体不明の浪人が豪剣を振るいながら大活躍をする時代劇だ。
今回取り上げるのは、その二作目にあたる『牙狼之介 地獄斬り』である。二作目とはいっても、一作目と二本同時に撮られていたので、実質的には初主演作といえる。そしてこの狼之介が実に、夏八木の魅力を一〇〇%引き出したキャラクターになっていた。
それは、冒頭からいきなり炸裂している。薄汚い身なりに髭モジャの顔、そして凄まじい雄たけびをあげながら、ひたすら刀を振るいまくる――とにかくワイルド極まりない男なのである。この時期の夏八木のために作られたようなキャラクターといえる。
舞台は、西部劇の空間のような、ゴツゴツした岩場だらけの乾いた荒野。そこに隠し金山を発見した山賊、山賊にいいように利用された意趣返しにと付け狙う浪人・孫兵衛(西村晃)、そして孫兵衛と行きがかり上関わり合うことになった狼之介の、三つ巴の闘争が描かれていく。
驚かされるのは夏八木の身体能力の高さだ。五社は夏八木にひたすら身体を張ったアクションをさせ、夏八木は見事にその期待に応えている。
たとえば、山賊に囚われた場面。ここで夏八木は上空高くに吊るされている。下は岩場だ。それでも夏八木はスタントを使わずに芝居をしてのけている。あるいは、吊るされた女を助けるシーン。ここでは、切れた荒縄を口にくわえて支えながら救出しているのである。どちらも、生半可な身体能力では実現できない。
そして、その身体能力に説得力を与えているのが、彼の肉体だ。物語終盤は山賊一味との乱闘が展開されるのだが、この時、狼之介の上半身はずっと裸のままなのである。ここでの夏八木の肉体の見事さたるや。徹底的に引き締まり、筋骨隆々。思わず見とれるほどの肉体美だった。これをスクリーンに映したい五社の気持ちがよく分かった。
以降、五社は夏八木を重要な役柄で起用し続ける。
五社が惚れ込んだ、若き夏八木の魅力。ぜひとも堪能していただきたい。