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連載春日太一の木曜邦画劇場

時代劇はファンタジー! 巨大な魔神が暴れまくり――春日太一の木曜邦画劇場

『大魔神』

2020/03/10
1966年作品(84分)/KADOKAWA/2800円(税抜)/レンタルあり

 拙著の最新刊『時代劇入門』が三月十日――早い書店では七日前後には店頭に並ぶ。

 その名の通り、これから時代劇に触れる人のための入門書だ。といって、堅苦しい話はない。気軽に楽しんでもらうための接し方を書いている。時代劇というと、観慣れていない方からすると「古臭い」「用語が難しい」「つまらないワンパターン」という先入観をもたれがちだ。だが――本連載をお読みの方はもうお分かりとは思うが――自由で楽しいエンターテインメントである。歴史や考証の専門知識がなくとも気軽に楽しめるし、表現の幅も物凄く広い。

 時代劇は過去の再現劇ではなく、ファンタジー。「こうだった」という「事実」ではなく「こうだったらいいな」という「ロマン」を描くもの。苦手な方、初めての方にその魅力を知ってもらいたくて書いた。

 今回取り上げる『大魔神』もまた、ロマンあふれる自由な時代劇作品である。

 舞台は戦国時代の丹波。家老の大舘左馬之助(五味龍太郎)は領主に対して謀反を起こし、討ち果たす。領主の子供である忠文(青山良彦)と小笹(高田美和)の兄妹は側近の小源太(藤巻潤)に守られて脱出。山奥の洞窟で巫女に匿われて成長していく。

 こうなると、この兄妹が左馬之助に復讐する――という物語展開になると容易に想像できる。が、本作は全く思いもよらない方向に動いていく。

 時は経ち。左馬之助は重税と労役を課す悪政を敷き、領民は困窮に喘いでいた。これを忠文たちが懲らしめる――とはならないのが本作の面白いところ。忠文も小源太も、敵にあっさりと捕まる。

 ここからが、本番だ。この領内では、魔神を封じたとされる巨大な武神像が山の斜面に祀られていた。この武神像が、小笹の祈りを受けて動き出すのである。それまで埴輪のような扁平な顔だったのが、怒りに満ちた恐ろしい形相に変貌。これが「大魔神」だ。

 まずは変身前に猛烈な嵐と地震を巻き起こして武神像を破壊に来た左馬之助の家臣たちを一蹴。そして山を下りると、左馬之助のいる城下へ。

 赤く染まった空の下、嵐とともに悠然と歩を進める大魔神。反撃の刀も鉄砲も、全く歯が立たない。恐怖に駆られ、悲鳴を上げながら逃げ惑う左馬之助の軍勢たちの気持ちが分かるほどの、圧倒的迫力の破壊ぶりであった。

 巨大な魔神が暴れまくり、次々と家屋をつぶし、敵をなぎ倒していく――。その特撮を駆使した映像は圧巻のスペクタクル。観る側は、ただ呆然と震えるのみ。

 こういう世界を描けるのも、時代劇。その魅力、改めてご理解いただきたい。

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