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連載春日太一の木曜邦画劇場

アウトローの葛藤に感動 愛する重みを伝える傑作――春日太一の木曜邦画劇場

『沓掛時次郎 遊侠一匹』

2020/02/18
1966年作品(90分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

「義理人情」という形で一くくりにされることもあるが、「義理」と「人情」は別物だ。

「義理」とは、公的、社会的に通さなければならない筋、つまり外的なもの。対して人情はあくまで個人的な感情に基づくものである。この両者が一致している場合は問題ない。だが、それが相反する――つまり、「義理としてはやらないといけないけど、人情としてはそうしたくない」「人情としてはそうしたいけど、義理としてそれができない」という場合、そこに人間の葛藤が生まれる。そして、劇として考えると、ドラマが最高に盛り上がる枷となる。

 この枷を作劇で上手く使って感動的な作品を次々と生み出した時代小説家が、長谷川伸である。長谷川作品の主人公は、たいてい江戸時代の渡世人=流浪のヤクザ者。彼らのヤクザ社会で守らなければならない掟や人間関係=「義理」と、結果としてそれと相反することになってしまった「人情」との相克を描き、アウトローの孤独と哀愁、そして人間の温もりを伝えてきた。

 映画においても、そうしたドラマ性を巧みに映し出した長谷川原作の作品がある。

 今回取り上げる『沓掛時次郎 遊侠一匹』は、まさにその代表作である。座組は前回の『瞼の母』と同じ、監督=加藤泰、主演=中村錦之助。じっくり泣かせてくれる一本だ。

 主人公の時次郎(錦之助)は凄腕の渡世人。これまで数々の喧嘩で人を斬ってきたことを悔い、争いを避けようとする。が、渡世人の宿命がそれを許さない。時には義理のため、時には人情のため、止む無く人を斬っていく。そんな男の哀愁を切なく苦く演じる錦之助の芝居が胸を打つ。

 旅の途中、時次郎は幼い息子を連れた女性・おきぬ(池内淳子)と出会う。だが、義理で斬った渡世人はおきぬの夫だった。いまわの際に母子を託された時次郎は、二人を連れて旅に出る。そして、時次郎とおきぬは互いを想い合うようになっていく。

 見事なまでに仕組まれた、葛藤のシチュエーションである。さすがは長谷川伸だ。

 心ならずとはいえ斬ってしまった男の妻を想う男と、愛する夫を斬った男に惹かれていく女。恋心という本来なら幸福感をもたらすはずの感情が、間に義理と人情が挟まることで、なんとも辛く重いものとして男女にのしかかる。

 詩情感あふれる映像によってじっくり丁寧に心情を掘り下げる加藤泰の演出と、それに応えるように胸が締め付けられる葛藤を情感たっぷりに演じる錦之助と池内の名芝居。人を愛することの重みが、じんわりと伝わってくる。

 長谷川伸の「泣かせの世界」。とくと浸ってほしい。

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