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連載春日太一の木曜邦画劇場

成田三樹夫に転機到来! 異形の公家役で他を圧倒!――春日太一の木曜邦画劇場

『柳生一族の陰謀』

2020/06/16
1978年作品(130分)/東映/2800円(税別)/レンタルあり

 一九七〇年前後、成田三樹夫はクールでダンディ、ニヒルで知的な役柄を時代劇・現代劇、善役・悪役を問わず数多く演じ、そのことごとくがカッコよかった。が、当人はそうした役ばかりが来ることに不満があったようで、当時のインタビューを読むと「冒険」をしてみたい欲求をうかがい知ることができる。

 そんな想いに作り手側も反応し、七〇年代半ばあたりから東映実録ヤクザ映画の悪役や独立系の映画などで、くだけた芝居をするようになる。

 そして一九七八年、成田三樹夫は究極の「冒険」に打って出た。それが、今回取り上げる『柳生一族の陰謀』だ。

 物語の舞台は、徳川秀忠の死後。三代将軍の座をめぐる家光(松方弘樹)派と忠長(西郷輝彦)派の両陣営の抗争が描かれる。監督は深作欣二。『仁義なき戦い』シリーズでのヤクザの親分の跡目争いばりに、策謀と欲望が渦巻く血みどろの抗争が荒々しいタッチで映し出されていく。

 そして本作には、両陣営に割って入る第三勢力が出てくる。それが「公家」だ。武家に握られたままの政治権力をこの混乱に乗じて奪回せんと、双方の陣営を巧妙に煽って争いを激化させていく。

 その首謀者が、成田三樹夫が演じる烏丸少将文麿。

 顔を真っ白に塗り、額に眉を描くメイク。甲高い声で笑い、口調は「おじゃる」。これまでのニヒルでクールなイメージを完全にかなぐり捨てた容貌と高いテンションの芝居で、徹底的に「公家」になりきっているのである。

 この段階で既にかなり驚かされるのだが、加えて、さらなる展開が用意されている。

 家光派の参謀格である柳生但馬守(萬屋錦之介)は文麿の暗殺を画策、柳生一門の手練れと根来忍者に襲わせる。相手は見るからに温室育ちの公家。刺客たちは楽勝気分で襲いかかる。ところが――。

 この文麿、刀を抜いたらとてつもなく強いのだ。たった一人で刺客を返り討ちにしてしまう。この時の成田が凄まじい。青白いメイクの下から突如として鋭い眼光が放たれ、声も一転して低くなり、凄味満点。ナヨナヨした公家にしか見えなかったはずの風貌が、今度は「異形の強敵」として映し出されることになった。

 その姿には、柳生十兵衛役として文麿と終盤に壮絶な決闘を繰り広げた千葉真一をして「あの成田さんを前にしたら、勝てる気がしなかった」と言わせるだけの、他を圧倒する凄まじい迫力があった。

 本作以降、成田はドラマ『探偵物語』のコミカルな刑事や『伊賀忍法帖』の妖術使いなど幅広い役柄を演じ、観る者を魅了していった。その転機、とくと味わってほしい。

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