1990年(114分)/東映/2800円(税抜)

 発売になったばかりの拙著最新刊『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)は、一九六三年のNHK大河ドラマ第一作『花の生涯』から九一年の第二十九作『太平記』まで、それぞれを作ってきたプロデューサーやディレクターの証言に基づき、一作品ごとに企画・配役・制作・撮影の舞台裏を追いかけている。

 その際に取材・執筆をしながら改めて気づいたことがある。それは、大河は有名な歴史上の人物だけでなく、一般的にはあまり知られていなかったり、知られてはいても脇や陰のような存在としてイメージされていたり――といった人物たちも主人公にしてきたということである。

 一九八九年の『春日局』も、まさにそんな作品。三代将軍・徳川家光の乳母である春日局は、それまでの時代劇では家光を陰から支える人物、あるいは「大奥」ものでの権力者として、脇役として扱われてきた。それがここでは主役に。そして、明智光秀の重臣だった父の磔(はりつけ)に始まる、波乱万丈の生涯が描かれていった。以来、「家光の乳母」だけでなく、一人の人物として脚光を浴びることに。

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 今回取り上げる『女帝 春日局』はその人気に便乗するかのように、大河の放送終了から一か月も経たないうちに上映された作品である。

 東映が製作し、プロデューサーは『仁義なき戦い』『柳生一族の陰謀』の日下部五朗なだけに、見事なまでに下世話でドロドロした陰謀劇として、春日局の半生を脚色している。

 その内容はというと、「わたくし、権力に抱かれとうございます。」という煽情的な当時のキャッチコピーの通り。序盤から凄い。家康(若山富三郎)は、夫の仕官を求めて陳情に来たお福(後の春日局、十朱幸代)を一目見て欲情、手籠めにしてしまうのだ。

 しかも、秀忠の正室の江与(吉川十和子)の子が死産だったために、この時にお福が身ごもった子が「竹千代」として育てられることになるのだ。それを知るのは奥向きの一部の者のみ。そして江与が懐妊。お福は孤立無援の状況下で壮絶な世継ぎ争いに巻き込まれていく。

 さすが東映。エンターテインメントに徹した、大胆な史実改変だ。といって、ただの下世話な便乗企画ではない。

 撮影は木村大作なので映像は高級感にあふれているし、脚本は『鬼龍院花子の生涯』の高田宏治なだけにお福を始めとする人々の愛憎と情念のぶつかり合う陰謀劇は見応え十分。衣装も大奥のセットも豪華絢爛だ。そうしたスタッフワークの一つ一つからは、便乗企画であっても大河に負けてなるものか――という気概を感じ取ることができる。

大河ドラマの黄金時代 (NHK出版新書)

春日 太一

NHK出版

2021年2月10日 発売

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売