1964年(88分)/東映/2800円(税抜)

 今回は山田風太郎原作『くノ一忍法』を取り上げる。

 物語は大坂夏の陣、落城寸前の大坂城から始まる。真田幸村(北村英三)は配下の女忍者たち五人に豊臣秀頼の子を妊娠させ、千姫(野川由美子)と共に城から退去させる。それを知った徳川家康(曾我廼家明蝶)は服部半蔵(品川隆二)ら伊賀忍者に彼女たちの殺害を命じた。一方、千姫は祖父である家康に歯向かい、彼女たちと共に自ら戦いへ身を投じていく。

 山田風太郎の忍者小説の最大の魅力は、奇想天外な忍法合戦にある。次々と繰り出される、忍者たちによる想像を絶する秘技の数々は読者のイマジネーションを刺激して大いなる興奮を生んできた。

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 といって、ひたすら激しい戦いを繰り広げる派手なだけの気楽なエンターテインメントかというと、そうではない。その裏側には、しっかりとした人間ドラマが描き込まれている。なぜ戦うのか、戦いの間はどのような想いでいるのか、戦いを終えてどうなるのか――。そうした濃密な人物描写・心理描写があるからこそ、忍法も盛り上がるのだ。

 そしてそこに描かれるのは、様々な理不尽に巻き込まれ、必死に抗う忍者たちの姿。そのため、その戦いは派手なようでいて、いつもどこか哀しさや切なさを背負っている。

 それは、本作に描かれている女忍者に関しても同じだ。

「くノ一」と呼ばれる彼女たちは、性技を極めた妖艶な術によって男たちを手玉にとっていく。そのため、男性観客を喜ばせるための「お色気」要員と思われがちだ。

 女性器に男根を挿入するとそこから抜けなくなり、身動きできなくなる「忍法天女貝」、身体の精気を全て吸い取られてしまう「忍法筒涸らし」。彼女たちの秘術を文字にすると、そう思われるのも致し方ないところだ。実際、映画化を企画した東映はエロスを売りにし、本作を実際に観ても妖艶な描写は頻発している。

 が、そこだけに囚われると大きな誤解に繋がる。

 原作に描かれているのは、理不尽な男性社会に苛まれ、その中でも必死に抗って生き抜こうとする――そんな、現代にも通じる女性たちの痛切なるドラマだ。本作は映画化にあたり、そこをさらに強調している。千姫は「身勝手な男どもへの女としての怒り」のために戦うと言い放ち、「豊臣と徳川」ではなく「女と男の闘い」と捉えているのだ。

 その視点で観ると、性技の見え方も違ってくる。いくら屈強な男たちでも情欲には逆らえず、くノ一たちに籠絡されていく。偉そうだったり強そうだったり――そんな男たちが無様な姿を晒す様は、実に痛快そのものなのである。

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