1996年(80分)/キングレコード/DVD-BOX/16000円(税抜)/レンタルあり

 前回も述べたが、山田風太郎の忍法小説は奇想天外な忍法合戦やエロチックな描写につい目が向けられがちだが、実際にはその裏側に描かれる理不尽な人間ドラマが熱い。

 ただ、やはり大きな魅力となるのは、その忍法の数々であることは確かだ。そして、映像化する上で、ここが壁として立ちはだかることになる。それらはあくまで、文字で書かれている描写を頭で想像するから楽しいのであって、実際に映像にしてみると、その奇想天外さゆえに時としてリアリティの欠如を招き、観ている側を白けさせかねない。

 その最たるところが、一九九〇年代にVシネマで連作(いちおう形ばかりの劇場公開もあったが)された「くノ一忍法帖」シリーズだ。

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 ここでは、「くノ一~」以外の山田忍法帖も含めて映像化されている。見るからにチープな特撮で映し出される忍法。忍ぶ気を全く感じさせないド派手な衣装に身を包んだ女忍者=「くノ一」たち。演じる女優たちが忍法を繰り広げる時に見せるヌード――。いずれもリアリティも迫力もなく、とにかく安っぽい。紹介されることがあっても、深夜の情報番組で「お色気映像」的に紹介されるか、笑いのネタにされるか。そのため、山田忍法帖や「くノ一」という存在に誤解をもたらす結果になってしまっていた。

 今回取り上げるシリーズ六作目『忍者月影抄』は特にそんな感じだ。本作には原作にはいない西洋人のくノ一が登場するのだが、彼女の繰り出す忍法はその名も南蛮妖術「母如礼縫亡」。こう書いて「ボジョレーヌーボー」と読む。乳房からワインのような液体を噴出させて、それを浴びた男に催淫効果をもたらすというもの。ネーミングの酷さと描写の安さは、このシリーズのバカげぶりの象徴として長く笑い種になっていた。

 が、そこだけ切り取られた紹介で安くてバカげた作品と思い、笑い飛ばそうとして実際に観たら、面食らった人もいるのではないだろうか。たしかに忍法の描写の数々は酷いのだが、個々の映像は情感たっぷりで、女優たちも丁寧な照明で美しく撮られているのだ。セットもしっかり作り込まれている。そのため、喧伝されているのと異なり、ちゃんと時代劇のたたずまいがあり、つい見入ってしまう。ラストは、どこか山田原作に通じる寂寥感すら漂っていた。

 それもそのはず。本作の撮影は藤原三郎で照明は林利夫。実は同時期にテレビで『鬼平犯科帳』『剣客商売』を撮っている、時代劇の手練れだ。

 低予算作品でふざけた描写が多くても、決して手は抜かない。そんな京都の時代劇職人たちの心意気を味わえる作品だったりするのだ。

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