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連載春日太一の木曜邦画劇場

DVD化までの遠い道のり。こうして私達は秀作に出会える!――春日太一の木曜邦画劇場

『遠い一本の道』

2021/03/09
note
1977年(112分)/ディメンション/3800円(税抜)

 先日、「DVD化されない映画の事情」という配信をした。

 これはDVDに限った話ではなく、動画プラットフォームからの配信や名画座での上映にも言えることなのだが、今は普通に観られている作品が今後も必ず観続けることができるかというと、そうではない。権利問題や会社や関係者の事情により、いつそれが観られるか分からなくなる。

 そして、その時はある日、急に訪れる。特に旧作にいえることだが、「今そこで映画を観られる」という状況は、実はありがたいことなのである――という話を配信で語った。

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 DVDも、「あって当然」ということではない。一つの作品を出すまでには様々な問題をクリアしなければならない。出したら出したで売れ行きが悪ければ次は出しにくくなるし、廃盤になればプレミア価格がついて手が出しにくくなる。そうしたDVDが出続けることでこの連載はもっているし、何より、一本でもたくさんの作品に出会いたい。だから、さまざまなレーベルの奮闘を応援していきたい。そう改めて心に誓った。

 中でも、本連載でお馴染みの「DIG」は、大手がなかなか手を出しにくい作品を次々とDVD化している、勇気あるレーベルだ。

 今回取り上げる『遠い一本の道』も、そんな一本。俳優の左幸子が自ら企画・製作、そして監督までした、とてつもない入魂の作品である。左のプロダクションと国鉄労働組合が提携して作られた。

 舞台となるのは、北海道のとある田舎町。国鉄の保線作業員・市蔵(井川比佐志)は、組織の近代化や作業の機械化に伴う人員整理や、いつまでも抜け出せない貧しい生活に反発、組合運動に身を投じる。妻・里子(左)は懸命に支えた。物語は、この夫婦の三十年近い暮らしが、労働運動の変遷とともに綴られていく。

 もちろん、かなりバイアスのかかった作品ではある。だが、左幸子の魂が乗り移ったような武骨で荒々しいタッチで映し出される、現場で働く人々への賛歌と終わりゆく時代への鎮魂の想い。そして、それらを具現化する俳優たちの大熱演により、充実した見応えの作品に仕上がっている。

 現代のマーケティング的な発想で考えると、DVD化しても売れそうな要素はあまりない。それでも、こうして出してくれるレーベルがあるからこのように観ることができ、作り手の想いに触れられる。

 しかし、いつまでもそんな幸せな状況が続くとは限らない。本作だけではない。本連載を読んで気になる作品にもし出会えたのなら、ぜひソフトをお買い求めいただきたい。

 それが、未来への遠い道を繋ぐ唯一の手段なので――。

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