1979年(111分)/ディメンション/3800円(税抜)

 ――昼間から映画館いくわけ? もったいなーい!

 今回取り上げる『さらば映画の友よ インディアンサマー』に出てくるセリフだ。

 沼津に住む映画好きの浪人生・シューマ(重田尚彦)は、東京の名画座でトラブルに巻き込まれていた中年男「ダンさん」(川谷拓三)を助けたことをきっかけに友情を育んでいく。ダンさんは「年に三百六十五本の映画を二十年、観続ける」ことを人生の目標とする映画狂で、日常会話でも名画のセリフを普通に織り交ぜながら喋り、話す内容も映画のことばかり。物語の舞台は一九六九年なのもあり、黒澤明がハリウッド映画を降板させられたことを我がことのように怒るし、学生運動で上映会が中止になった時は左翼団体に喧嘩を売る。

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 一方のシューマはというと、映画はもちろん好きだしダンさんとも楽しげに過ごしていた。が、そこは十代の青年。相応の性欲もあり、恋もする。彼が想う相手は、不良少女のミナミ(浅野温子)だ。

 シューマは近づいてきては離れ――を繰り返すミナミに翻弄され続けた。ダンさんはそんなミナミの本性に気づき、シューマのためにある行動に出る。が、そんなダンさんをシューマは疎ましく思うようになり、遠ざけていく。

 後半になればなるほどに繊細なタッチで人間関係が綴られ、ビターで切ない展開に。そして、最後は悲劇が訪れる。

 何より注目したいのが、本稿の冒頭に出したセリフだ。

 これは、シューマとダンさんが日中に二人で映画館に行こうとする際、街でばったり会ったミナミが言ったものだ。この後、シューマはミナミも映画館に誘うのだが、ミナミは「スケートに行く」と断る。

 このセリフ、実に考えさせられた。今の自分自身はフリーランス。時間を自由に使える。映画館に行くのは平日の昼と決めている。人が少ない時間にスクリーンと向き合える。まさに至高だ。「もったいない」という感覚は全くない。「贅沢だ」と思っている。

 それだけに、もし好きな女性にあんなことを言われたら、一気に相手への気持ちは冷めてしまうだろう。そうした価値観の相違は、後でさらなる隔たりに繋がるだろうから。

 が、一方でこうも思う。シューマと同じ童貞の若者なら。相手はもうすぐ初体験させてくれるかもしれない、しかもチャーミングな女性――となれば、何を言われても気にならないのではないか。シューマが、そうであったように。

 性欲が全てに勝ってしまうシューマと、映画、そして「映画の友」への想いが全てのダンさん。そこに映し出されているのは、過去と今、それぞれの自分自身な気がした。

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