1974年作品(97分)
東映
VHSレンタルあり
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 惜しくもアカデミー賞は逃したが、今年で七十歳になるにもかかわらず今でも不屈の男を演じ続けるシルヴェスター・スタローンは世界中の映画ファンに勇気を与えている。

 日本映画で「不屈の男」を演じてきた役者といえば――この連載でも何度か取り上げているが――なんといっても松方弘樹である。松方は時代劇やヤクザ映画などで、いつも強大な敵に立ち向かってきた。そして、いかなる困難にぶつかろうとも、決して諦めることなく前へ前へと突き進み、壮絶な激闘を繰り広げる。

 今回取り上げる『脱獄広島殺人囚』は、そんな松方のバイタリティが特に濃厚に凝縮された結晶ともいえる作品だ。

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 舞台は戦後間もない広島。松方扮する主人公・植田は麻薬の売人をその愛人もろとも殺害して二十年の懲役を喰らい、広島刑務所に収監される。

 そしてここから、脱獄しては捕まる……を繰り返す植田の物語が展開されていく。

 とにかく、松方の姿がエネルギッシュだ。刑務官や看守たちに対して絶えず反抗的な目つきをギラつかせ、どれだけ激しいリンチを受けても全く衰えることを知らない。特に終盤、ヤクザ(伊吹吾郎)を風呂で殺したために全身を拘束されて独居房に転がされた際の、目の前に現れた鼠を睨みつける眼光は強烈だった。

 もちろん、脱獄シーンでも松方は迫力満点の演技を見せる。リンチで傷ついた身体を必死に引きずりながら独居房の床から通じる下水道へと這い出す一度目、同じ房の囚人・末永(梅宮辰夫)の支えるロープを掴みながら刑務所の壁をよじ登る二度目。いずれも必死さがみなぎっていた。

 娑婆に出てからも、それは変わらない。中でも二度目の脱獄後に印象的な場面がある。

 植田は四国の山奥で、役所に内緒の「闇」で牛の解体をする三人衆(室田日出男、川谷拓三、志賀勝)の仕事を手伝うことになる。作業後に植田は女郎を買うのだが、血まみれで解体をした高ぶりが抑えられず、「ワシはまだ終わっとらせんがな」と相手が嫌がっても愛撫し続けようとする。

 執拗なまでに女郎に迫る松方の全身から発せられる異常なまでの熱気からは、絶対に己が闘いを諦めることを考えない男の生命の躍動を感じ取ることができ、「これぞ松方弘樹の真骨頂」と心震えた。

 そんな松方が先日、病に倒れた。手術が困難な難病なのだという。だが、それでも筆者は信じたい。これまで何度も不屈の姿を見せてきてくれた松方なら、きっと病にだって屈しないはずだ……と。あのギラギラしたバイタリティに再び触れることのできる日が、必ずや戻ってくる。そう願い、祈り続ける毎日である。