山田風太郎は二十世紀最大のエンタメ作家である。近年ではせがわまさきによるマンガ、昭和五十年代なら角川映画、それ以前なら昭和三十年代の忍法帖ブームと、巨人・“山風”の一大エンタメを体験した世代は恐ろしく広い。

 絶対君主のもと、特殊能力を持つ忍者たちが戦う忍法帖は、デスゲーム小説の原型であり、『ジョジョの奇妙な冒険』のような異能バトルのさきがけである。面白いのは当たり前なのだ。『甲賀忍法帖』『くノ一忍法帖』『風来忍法帖』など名作は数限りないが、今回は壮絶さ抜群の究極の一作をご紹介したい。その名も強烈な『外道忍法帖』

 何が凄いといって忍者の数である。忍者たちが2チームで戦う忍法帖は『甲賀~』はじめ幾つかあるが、この『外道忍法帖』は何と3チーム。ローマ少年使節団が日本に持ち帰った莫大な金(きん)のありかをめぐり、幕府、怪人・由比正雪、黄金を守ろうとする切支丹チームそれぞれ15人、実に合計45人の特殊能力者による大殺戮戦が繰り広げられるのである。

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 フェロモンで膨大な虫を呼び寄せる術、カイコのように強靱な糸を発する術などなど、ほんの数ページの戦いごとに「忍法」が使い捨てられる。まさにアイデアの饗宴だ。

 そして40を超える人命が無駄に失われた末に浮かびあがるのは、幕府に弾圧を受けた切支丹の怒りであり、独裁体制下での憎悪の連鎖――

 山田風太郎は戦争の惨禍を目の当たりにし、大義のために無辜(むこ)の民が殺される愚かさに絶望した。幕府が忍者を殺し合わせる忍法帖の核心にあるのはそんな冷たい怒りなのだ。ただの荒唐無稽ではない。そこを読み逃すなかれ。(紺)

外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)

山田 風太郎 (著)

河出書房新社
2005年4月 発売

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