1978年作品(106分)/紀伊國屋書店/4,800円(税抜)/レンタルあり

 先日、吉行和子にインタビューさせていただいた。

 八十歳を超えてもなお、どこか可愛らしいチャーミングさのある方で、飾り気のないおっとりした口ぶりには惹かれるものがあった。一方、その優しい口調とは裏腹に、語られる女優人生は苛烈で、六十年にわたり第一線を生き抜くだけの意志を感じ取ることができた。当初は引っ込み思案だったのが「どうせ長く続かない」という先輩の陰口への反発から続ける決意をしたこと、新しい刺激に駆り立てられて劇団を辞めて前衛劇に向かったこと――「こう」と決めたら絶対にそうするという、強固な魂の持ち主なのだ。

 今回取り上げる『愛の亡霊』への出演も、そうだった。

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 当時既に四十歳を超えていた吉行にとって、ヌードシーンを要する激しい濡れ場のある作品、しかも『愛のコリーダ』での猥褻論議でセンセーションを起こしたばかりの大島渚監督作品となれば、本来は難しい選択だったはずだ。が、吉行は迷わなかった。ここに女がいる――台本を読んでそう判断した彼女は出演を即決したという。自身も、年齢がある程度重なるとヒロイン役が来にくくなる当時の映画状況に不満があったという。

 舞台は明治中期の北関東の農村。せき(吉行)には人力車夫の儀三郎(田村高廣)という夫がありながら、豊次(藤竜也)と不倫関係を結ぶ。やがて、せきと豊次は儀三郎を殺害するのだが、儀三郎はせきの前に亡霊として現れる。

 本作は吉行の言葉の通り、全編にわたり「女」そのもの――というよりも、本能に生きる「人間そのもの」の剥き出しの姿が描き尽され、吉行はそれに見事に応えていた。

 初めての豊次との情交シーンでの、豊次の隆々たる肉体を前に悦楽の表情を浮かべながら欲情に身を任せるしかなくなっていく様。夫を殺した後、発覚を恐れて近づこうとしない豊次と山で出合い「嫌いになったんじゃあるめえな」と言いながら豊次の身体をひたすら貪る様。豊次に突き放され、警察に疑われ、娘には去られるという、孤独と恐怖と情欲の狭間で精神を壊し、身体を重ねながら豊次の手をちぎれんばかりに噛む様。そして、夫を捨てた古井戸の中で視力を失い、「寝てる間に殺してくろ……」と豊次に頼んだ後で、「もうみっともないかしんねえけど、オレを見て、覚えていてくろ」と裸身を晒し「豊次さん、触ってくろ」と最後の情事に臨む様――。

 男を求めること以外で感情を出せなくなってしまった女の情念を、吉行はむせかえるほどの土着的なエロスをほとばしらせながら表現している。

 芝居に対する吉行の強烈な覚悟に触れられる作品だ。