音楽会や運動会、掃除当番や給食当番……。とある東京の公立小学校の“ありのまま”を観察する長編ドキュメンタリー『小学校~それは小さな社会~』。海外では、その“ありのまま”が、驚きをもって迎えられた。映画は世界10カ国以上で配給され、日本では2024年12月に公開されヒット。同じ映像素材からは、音楽会に向けて練習する少女が主役の短編『Instruments of a Beating Heart (心はずむ楽器たち)』が生まれ、米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

 神戸で生まれ、アメリカで映画を学んだ山崎エマ監督は、日英の血を引く映像作家。映画プロデューサーである夫のエリック・ニアリ氏とともに、新しい映画の地平を切り拓く。さらに米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた伊藤詩織監督の『Black Box Diaries』では編集も担当。英国アカデミー賞(BAFTA)授賞式へと向かう途中で立ち寄ったベルリン映画祭で、ドキュメンタリー映画を巡る冒険について話をきいた。

『小学校〜それは小さな社会〜』ポスタービジュアル

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日本と海外の小学校教育の違い

——小学校を舞台にまず長編を作り、それを短編にしたという流れでしょうか。

山崎エマ(以下、山崎) ちょっと違います。最初は前作『甲子園 : フィールド・オブ・ドリームス』(2019)の時と同じく、NHKと共同製作でプロジェクトがスタートしました。そして撮影が終わった頃に海外の映画マーケットで企画ピッチをし、結果、フランスとフィンランドの放送局や製作会社が乗ってきました。その頃、ニューヨーク・タイムズ紙からも「短編を作らないか」と依頼を受け、長編と短編を同時に作ることになったというのが、ざっくりとした経緯です。

 私自身は日本の小学校に通った後、インターナショナル・スクールとアメリカの大学に進学しました。だんだんとアメリカ寄りの生活になる中で、自分という人間は日本の小学校から作られた部分があるのではと思い、その気づいた面をいつか映画にしたいと、10年位前から思っていました。

©林瑞絵

——イキイキとした人物の魅力に加え、日本の小学校の良さが伝わります。

山崎 そもそも生活面を教育の対象としている国は珍しいのです。(日本の)学校は勉強を教えるだけでなく、給食や掃除、行事などの集団生活を通して人間形成をします。それが海外とは違うのだと気がついて、「日本社会は学校で作られている」と思うに至りました。

©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

 自分の小学校時代を振り返っても行事しか覚えていません。音楽会や運動会で大きな壁や課題に直面しても、「皆で協力して頑張ればできる」という達成感を学んだことが、とても自分の糧になっています。大人に「できるよ」と導かれ、「1+1が2以上になる」という成功体験をたくさん積んだのだな、と。