拙著最新刊『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)が、二月七日から全国の書店に配本される。
これは、一九六三年のNHK大河ドラマ第一作『花の生涯』から九一年の第二十九作『太平記』まで、それぞれを作ってきたプロデューサーやディレクターの証言に基づき、一作品ごとに企画・配役・制作・撮影の舞台裏を綴ったノンフィクションである。大河ファンにはたまらない一冊になると自負している。
さて、大河ドラマというと「歴史ドラマの王道」と思われがちだが、実はそうでもない。これまで一般的には悪役的に扱われてきた人物(井伊直弼、柳沢吉保、源頼朝、徳川家康、足利尊氏など)を主役に据えて再評価させたり、「忠臣蔵」は計四回も描かれたが全て別の解釈だったりと、従来のイメージを覆すような切り口に挑戦してきたのだ。
八七年の『独眼竜政宗』もそう。主人公の伊達政宗は、幼いころに疱瘡の病で片目を失い、そのコンプレックスと向き合い葛藤しながら、やがて奥州随一の大名となる。これが大人気となり、その後のイメージが形作られた。
が、実はその前は違った。
では、どのようなイメージだったのかというと、それがよく分かるのが今回取り上げる『独眼竜政宗』。五九年に東映で作られた映画で、中村錦之助が政宗を演じている。
本作、大河とタイトルは同じだが、内容は全く異なる。
まず驚かされるのは、青年期の政宗の活躍が描かれるにもかかわらず、両目が大きく開いていることだ。幼い頃に疱瘡にかかった設定は、本作では無くなっているのである。
冒頭から版図を広げる連戦連勝の快進撃がテロップで説明され、初登場は白馬に乗って現れる。つまり、貴公子的なヒーローという描かれ方だ。
そして、そんな政宗を演じる錦之助がとにかく凜々しい。その颯爽とした姿は、苛烈さと英明さが同居する本作の青年・政宗像にピッタリ。政宗は凄い英雄だったんだな――と自然と受け止められる。
では、いつ片目を失うのか。その描かれ方もまた、英雄的だった。敵の刺客の集団に襲われた際に、矢で目を射抜かれるのである。片目に矢を突き刺したまま血のりで顔を真っ赤に染め、降りしきる雨を浴びつつ刀を振るう――。その姿、まるで鬼神だ。片目が戻らないことを知った際も「目が潰れてもビクともいたさん!」「負けぬ――!」と勇ましく乗り越えようとする。
大河の政宗を先に知る方からすると、驚きの展開だろう。
大河以前以後で歴史上の人物の描かれ方は大きく変わる。それを比べるのも、歴史ドラマの大きな楽しみである。