1969年(165分)/東宝/2500円(税抜)/レンタルあり

 先週、信州は塩尻の図書館で講演する機会があり、せっかくなので「信州を舞台にした時代劇の魅力」という語り下ろしの演題に挑戦してみた。

 信州を舞台にした時代劇は、大きく分けて三つある。

 一つめは、真田を中心に据えた戦国~江戸初期にかけての作品だ。真田幸村と十勇士の活躍を描いた奇想天外な忍者ものもあれば、幸村の父・昌幸が上田城で徳川の大軍を迎え撃った歴史劇もある。

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 二つめは、宿場もの。信州は東西を中山道が横断しており、宿場町が数多くある。主に江戸時代において、そうした宿場町を舞台に繰り広げられる股旅ものやアクションものが実はそれなりにある。

 そして、三つめ。信州と言えば、戦国時代の甲斐の大名・武田信玄による信州攻略戦と、そのクライマックスに訪れる越後の大名・上杉謙信との川中島での決戦だ。時代劇でスケールの大きなエンターテイメントを――となると、古くからこの川中島の戦いが題材に選ばれることが多い。

 戦国最強ともいえる両雄が智勇を駆使して、八幡原の平原で無数の騎馬武者がぶつかり合う。そのスペクタクルは、映像化される度に観る者を血湧き肉躍らせてきた。

 中でも圧巻が、今回取り上げる『風林火山』だ。

 三船敏郎が率いる三船プロ製作による本作は、武田軍の軍師・山本勘助(三船)が若き日の信玄=晴信(中村錦之助)に仕えるところから物語が始まり、川中島で謙信(石原裕次郎)と雌雄を決するところで終幕を迎える。

 この作品に三船は多額の予算をかけた。まずは、キャスティングが凄まじい。三船、錦之助、裕次郎に加え、佐久間良子、久我美子、志村喬、中村翫右衛門、月形龍之介といった各映画会社の大スターたちから緒形拳、田村正和といった当時の若手スターまでもがズラリと顔を揃え、しかもただの顔見世だけではなく、演技で火花を散らす豪華さを見せつける。

 そして、なんといっても川中島の戦いだ。相馬の「野馬追祭り」から全面的な協力を得たことで三百頭分の人馬と武具を揃え、これが画面を埋め尽くして大平原で相争うのだから、とにかくド迫力。

 この群衆シーンに、豪華キャストが見事に絡む。大軍を切り裂いて信玄の本陣に襲いかかる謙信=裕次郎の颯爽とした姿。それに対して微動だにしない錦之助の貫禄。そして、不利な戦況を打開すべく騎馬隊で突撃をかける勘助を演じる三船の悲壮感と、その壮烈な最期。戦国の歴史ロマンが徹底して描かれていた。

 こうした舞台を設定できるのが信州の魅力。この機会に、ぜひ再確認してほしい。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売