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連載春日太一の木曜邦画劇場

三船敏郎が豪傑そのもの! 圧倒的スケールの戦国劇――春日太一の木曜邦画劇場

『暴れ豪右衛門』

2020/03/31
1966年作品(100分)/東宝/2500円(税抜)

 三船敏郎がこの四月に生誕百年を迎える。

 そんなタイミングに合わせてか、彼の所属していた東宝が主演作品を一気に廉価版で発売する。そこで、今回と次回はその発売ラインナップの中でも特に印象的な作品を紹介していきたい。

 まず取り上げるのは、『暴れ豪右衛門』。戦国時代の加賀を舞台にした、スケールの大きな娯楽時代劇である。

 三船の演じる主人公・豪右衛門は隣国の大名たちから集落の独立を守るために戦う土豪。この男に率いられた軍勢は大半が武装した農民たちであるにもかかわらず連戦連勝、戦いのプロであるはずの武士たちを圧倒し続ける。

 それだけのことをしてのける男だと納得できるだけの軍神ぶりが、全編にわたり三船の一挙一動に宿っていた。

 冒頭から凄まじい。「侍どもをぶちころせ!」という周囲の空気を圧する掛け声を放ち、自ら先頭に立って大軍を率いる豪右衛門。この時の三船は鬼気迫る表情で馬を自在に操りながら片手で長大な薙刀を振り回し、馬上から敵をバッタバッタと斬り伏せていくのだ。その姿は、まさに「豪傑」という名にふさわしい。

 村に戻ってきてからも豪傑そのもの。厳つい面構えと豪快で朗らかな笑顔、そして喜怒哀楽を全身で表現する可愛げ――その暑苦しいまでの勇ましさ、戦記小説からそのまま抜け出してきたかのよう。

 物語は、土豪たちを滅ぼそうとする越前の大名・朝倉氏との対立を軸に進む。ここで立ちはだかってくる朝倉の軍師を演じる西村晃がまたいい。とにかく知的でクール。そして憎々しい。何から何まで三船と対極的で、その冷徹な存在が豪右衛門の荒武者ぶりを一段と際立たせていた。

 これだけの男を成り立たせる、作品世界のスケール感も素晴らしい。冒頭の合戦シーンでの物凄い人馬の数と躍動感。ロングショットや俯瞰で全体像を映せるほどの大規模で建てられた村落や砦のセット。そして、吹きすさぶ砂塵。それらを背景に三船=豪右衛門が鬼の形相で暴れまくるのだから、その映像たるや、もうとてつもないド迫力の大スペクタクルになってくる。

 その一方で、人情ドラマを得意とする稲垣浩が監督しただけあり、豪右衛門とその弟たち(佐藤允、田村亮)との葛藤もしっかり描かれていて、それがドラマの重要なスパイスになっていた。弟たちを厳しく育てようとする豪右衛門の様は厳然としているだけでなく、その裏側の真心も伝わる。さすが、三船だ。

 戦国時代の荒々しい空気感と、そこに生きる人々の熱さを三船の豪傑ぶりを通じて濃厚に味わうことができる。

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