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連載春日太一の木曜邦画劇場

三船が演じるラブコメ! これは惚れてしまうぞ!――春日太一の木曜邦画劇場

『東京の恋人』

2020/04/07
1952年作品(97分)/東宝/2500円(税抜)

 本連載でも折に触れて書いてきたことだが、三船敏郎の魅力は多岐にわたる。

「侍」を演じる時のワイルドさや豪快さ、軍人を演じる時の器の大きさ、そして人情味。作品によって、さまざまなカッコよさを見せてきた。ただ、これらの魅力には共通する点もある。それは、武骨で泥臭い男臭さだ。シュッと洗練された都会的なダンディさの対極にある。

 といって、三船がそうした役柄を演じてこなかったかというと、そんなことはない。端正な目鼻立ちの持ち主でもある三船。「二枚目」な役柄を演じても、ハマッていた。

 今回取り上げる『東京の恋人』も、そんな一本。前回の『暴れ豪右衛門』と同じく、三船生誕百年のタイミングでDVD化されている。

 舞台は未だ戦災の傷跡が残る東京。勝どきから銀座へ向かう都電の中で画家のユキ(原節子)が謎の男・黒川(三船)と出会うことで始まる、ラブ・コメディである。

 三船とラブコメ——というと意外な組み合わせと思われる方もいるかもしれないが、見事にやり切っている。蝶ネクタイをしめ、ポケットチーフを覗かせたスーツに身をつつみ、頭にはパナマ帽、帽子をとるとオールバック。そんな軽やかな出で立ちと大きな体躯の組み合わせは、まさにハンサム。ユキを前にした時のはにかんだ笑顔やとぼけた表情も、たまらない。

 黒川は宝石店の店頭で陳列するための、イミテーションの宝石作りを生業としている。その偽物を成金社長(森繁久彌)が愛人(藤間紫)に購入したことからドタバタ騒動に発展。そうした中でユキは社長に言い寄られ、一方で黒川とユキは惹かれ合うように。

 もちろん、三船だからただダンディなだけではない。

 ユキの仲間である靴磨きの少年たちがヤクザに脅された時は割って入り、さすがの押し出しで圧倒。ユキが家に訪ねてきた時は、屋根の修繕中で上半身裸のまま挨拶をする。終盤になって一度はユキにふられ、酔っ払ってふてくされる様も可愛らしい。

 ダンディぶりの時おりに、そんな三船らしい武骨な一面も垣間見えるものだから、何重にも魅力的なキャラクターとして映っていた。

 森繁をはじめとする芸達者の脇役陣によるコミカルな芝居や、船の往来に合わせて開閉する勝鬨橋を上手く利用した小粋な物語展開も合わさり、テンポよく時間は過ぎていく。

 そして観終えて、まぶたに残るのは三船の優しくて大らかな横顔。ユキならずとも、これは惚れてしまうな——と思えた。というか、惚れた。

 ぜひ、ヒロインとともに三船にキュンとしてもらいたい。

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