藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社・日本将棋連盟、協賛:大和証券グループ)の第1局。勝負は終盤へと向かう。

 永瀬は残り9分になるまで62分の長考で、後手玉のほうへ成銀をにじり寄った。いろいろ有力手があるが、これは控室では足りないと見ていた変化だ。そして壁銀を解消して奥へ逃げる藤井玉に、永瀬は歩頭に桂を捨てて迫った。だが、これでは詰めろが続かないようだ。

名人戦第1局、藤井聡太名人(左)と挑戦者・永瀬拓矢九段(右)

1日目は難解な終盤戦を見据えた早指しだった

 大盤解説会を見に行くと、高見は「まだ難しい」と解説していた。私が見ているのに気付いたので、控室の見解を伝えると、「藤井玉に頓死筋がある」と言われびっくり! 成銀を捨てて、もし取れば自陣の飛車も金も総動員しての21手詰みだ。歩頭の桂には恐ろしい狙いがあったのだ。

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 控室に戻ってそれを伝えると皆も驚いていたが、継ぎ盤を見ると、まったく別の手を調べていた。モニターに映る藤井の表情を見て、もしや詰みを考えているかと、永瀬玉の詰みを検討していたのだ。ええっ、永瀬陣には藤井の駒が1枚もいないよ?

 中継記者に藤井の残り時間を聞くと、69分もあるという。そうか、この難解な終盤戦を見据えての1日目の早指しだったのか。やがて37分の考慮で藤井が歩頭の桂を銀で払い、逆に桂を打って王手をかけた。控室も高見もABEMAで解説の広瀬章人九段も、皆が驚く。対局室のモニターを見ると、藤井は読み切りましたという表情になっている。

 

「雰囲気で読み切られたというのはわかっていると思うけど、手順がわからないのは永瀬はつらいなあ」

 自身も竜王戦で藤井と七番勝負を戦った佐々木は、永瀬の心情を慮った。

永瀬投了…何もかもが異次元の37手詰

 藤井は桂を捨てて、豊富な持ち駒をすべて王手で連打していく。奪った飛車もすぐに打って金と交換し、馬を桂と交換し飛車を成り込む。金合いが最強だが、上から桂をさらに連打し、最後は角を自陣に引いて王手!

 これを見て午後8時55分、永瀬投了。

 

 投了以下も、詰みまでには10手以上かかり、8八にいた玉を5一まで追いかけ回しての37手詰めだ。