春は名人戦だ。
藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社・日本将棋連盟、協賛:大和証券グループ)が開幕した。第1局は4月9日から10日にかけて、東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で行われた。王将戦七番勝負が終わってからちょうど1ヶ月後の対局だ。
名人戦七番勝負第1局開催
椿山荘で名人戦七番勝負第1局が開催されるのが通例となったのは、毎日新聞・朝日新聞共催が始まった第66期(2008年4月)からで、今期で18回目となる。庭園の桜や新緑が美しいこの季節、毎年前夜祭から華やかに、手厚いもてなしで開催していただけるのは本当に幸せなことだ。感謝に堪えない。
名人・藤井は対局室に、いつもと印象の違うモダンな風合いの羽織姿で現れた。ファンからの贈り物だということが後から報じられたが、そうしたお心遣いもまた長い将棋の歴史の中で息づいており、ありがたいことと思う。
さて、第1局なので振り駒で先後を決める。5枚の歩を振り投げて、歩が多ければ名人先手、と金が多ければ挑戦者先手。この振り駒から第6局目までは先後を交代し、第7局までもつれ込むと改めて振り駒が行われる。多くのカメラに囲まれる中、と金が3枚出て永瀬が先手に決まった。
2人の前局にあたる王将戦第5局でも後手番だった藤井は、初めての2手目△3四歩から雁木にして話題になったが、本局では飛車先の歩を突いた。永瀬の角換わり腰掛け銀を受けて立った。
対局開始から3時間で68手も進む展開
序盤の駆け引きの末、永瀬が銀取りに桂を跳ねて戦端を開いた。この手順は誰あろう藤井が最初に指した仕掛けだ。対して、藤井は銀を玉の壁となるほうに引いた。3月2日に行われた棋王戦第3局で増田康宏八段が指した新手で、その将棋は先手の藤井がうまく攻めることができず、千日手となった。経験を生かして自ら採用したのだ。
藤井の指し手が早い。1日目午前中だが消費時間は最大でも7分と、時間を使わず進める。永瀬も時間を使わず、対局開始から3時間で68手も進んだ。そして午後1時、昼食休憩前に39分を使って考えていた永瀬が、飛車取りに馬が入り、ようやく棋王戦第3局とは違う展開になった。
だが、前例から離れても藤井の指し手は止まらない。78手目、馬が取れるのを放置して、先手陣深く、玉近くの桂の頭に歩を叩いた。この手の考慮時間も20分、明らかに研究手だ。とはいえ持ち時間9時間もあるのに、なぜそんなに急ぐんだ? その疑問の答えは2日目にわかる。