永瀬が見せた「簡単には決着をつけさせない強さ」

 局面は進まない。86手目からの消費時間を記すと、まず藤井が86手目に113分をかけた。ここで昼食休憩1時間を挟んで永瀬が61分、さらに藤井59分と、たった3手進むのに約5時間もかかった。

 そして89手目、永瀬が5筋の歩を突いたのが問題の一手。7筋にいる飛車を追い払っておくのが先だったようだ。控室には佐藤紳哉七段と伊藤真吾六段も訪れ、熱心に検討されたが、すかさず7筋に銀を打ち込んだ藤井がペースを握ったと、見解は一致した。7筋に藤井のラッシュが続く。

佐藤紳哉七段

 永瀬は守りの銀を見捨て、藤井の攻撃の根元である飛車の頭に歩を打つ。ここで30分の短い夕休憩に入った。

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 後手よし、とはいえ変化が多く難解すぎて、結論は出ない。高見は言った。

「永瀬さんには簡単には決着をつけさせない強さがありますね」

控室で検討する立会人の島朗九段(右)と高見泰地七段

 夕食休憩明けも藤井は攻め続けると控室では見ていたが、銀を取った後は何もせず、飛車を逃げて手番を渡した。「ここで!」と、皆が驚く。近藤は「まったく考えてなかったですね」。

副立会人(朝日新聞)の近藤誠也八段

 手番を渡された永瀬が最後の長考に入った。なにか永瀬に手段があるはずと、控室はにわかに活気づいた。

写真=勝又清和

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