永瀬は53分考えてから玉で取った。そして互いに質駒を取り合ったのち、藤井が86分使って永瀬玉のすぐ横、香の頭に歩を叩く。ここで永瀬が115分の大長考に沈み、午後6時30分、そのまま封じ手に。

午前中にたったの4手…1日目とは打って変わってスローペースに

 2日目、私は11時ごろ現地控室に到着した。立会人の島朗九段、副立会人(朝日新聞)の近藤誠也八段にあいさつをする。最近の近藤は朝日杯将棋オープン戦優勝、さらには順位戦でA級昇級とノリに乗っている。同じく副立会人(毎日新聞)の佐々木勇気八段と、大盤解説会の解説者の高見泰地七段もいる。佐々木と高見は私と同じ石田和雄九段門下の兄弟弟子で、実に心強い。

 佐々木は、昨日から藤井の△8八歩や△9八歩を予想し検討していた。

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「藤井さんの研究勝ちですね。藤井さんが持ち時間でリードしているのは、今まであまりなかったですね。持ち時間で押せないと永瀬つらいなあ」

副立会人(毎日新聞)の佐々木勇気八段

 1日目とは打って変わってスローペースになり、今日は封じ手を含めても午前中にたった4手しか進まない。

局面が動かず「詰将棋解答選手権」の話題に

 局面が動かないとあって、先日開催された第22回詰将棋解答選手権チャンピオン戦の話が出る。藤井の影響で、棋士も奨励会員も皆が難解な詰将棋を解くようになった。今回は伊藤匠叡王や佐々木も初参戦し、プロ棋士が20人も参加した。その中で藤井が唯一全問正解の100点満点。前半後半あわせて持ち時間180分中59分も余らせて、ぶっちぎりの優勝だ。44.5点で44位だった佐々木は「藤井さんは別枠です」と言いながら頭をかいた。

筆者と同門の高見泰地七段(左)と佐々木勇気八段(右)

 詰将棋作家・チェスプロブレム作家にして英文学者の若島正さんが取材でいらしたのでお話をうかがう。「今までの優勝の中で一番驚いた」と私が言うと、「藤井さんだから特に驚かないですね」。

 さらに、竜王戦で2期連続快進撃を続けている山下数毅三段の話にふれる。

「今回83点で3位の山下くんとは、彼が幼い頃に詰将棋の話をしたことがありまして、『詰将棋に興味を持ったきっかけは、打ち歩詰め打開でよく出てくる飛車ナラズに感動したから』と言われたんですよ。藤井さんが9歳で『将棋世界』に初入選した作品が初手飛車ナラズなんです。なにか似たところを感じますね」

 天才同士には通じるところがあるということか。