中学時代から大学時代にかけての約十年、とにかく名画座に通いまくっていた。
映画の知識はほとんどなかったので、劇場に置かれたチラシや情報誌『ぴあ』でタイトルを見て感じたインスピレーションが、どれを観るかを決める上での大きな拠り所になっていた。その時に気づいたのは、かつての日本映画には、凄まじいインパクトを放つタイトルの作品が多いということだ。
『九十九本目の生娘』『憲兵とバラバラ死美人』『恐怖奇形人間』『県警対組織暴力』『徳川セックス禁止令』『人妻集団暴行致死事件』――。こうした頭がクラクラするような扇情的なタイトルのいかがわしさも、旧作邦画に惹かれていった大きな要因となった。
そして、当時目にした中でもひと際、強烈なタイトルの作品がある。それが今回取り上げる『ザ・ゴキブリ』だ。
あの忌まわしい黒い虫に「ザ」をつけただけのシンプルなタイトル。見た瞬間、「な、なんだ、これは――」と衝撃を受けた。タイトルだけでは何がなんだか分からない。でも、その字面の放つインパクトは先に挙げた錚々たるラインナップをも凌駕していた。
しかも、タイトルのハッタリだけの作品ではない。内容も、負けず劣らずの衝撃的な出来になっている。
本作は、渡哲也が演じる刑事・鳴神涼を主人公にしたシリーズの二作目。鳴神は悪を仕留めるためには手段を選ばず、容赦もしない。そのため、警察組織からも犯罪組織からも忌み嫌われ、「ゴキブリ刑事」と呼ばれていた。加えて、本作では悪党たちも「ゴキブリ」呼ばわり。つまり「ゴキブリVSゴキブリ」――タイトルに偽りなしといえる。
前作『ゴキブリ刑事』でもブルドーザーで敵のアジトを破壊するなど派手なことをしていた鳴神だが、今回はさらにエスカレートさせている。
車を炎上させながらの銃撃戦を繰り広げる冒頭は、ほんのまだ入り口。車の屋根に悪党を手錠でくくりつけたまま市街地でカーチェイス、モーターボートでチェイスしながらの海上銃撃戦(しかも、渡自らがハンドルを握る)と来て、最後は無人の競輪場での緊迫感あふれる決闘の末に敵を木っ端みじんに。最高だ。
本作のDVDが廉価版で新たに発売された。このジャケットがまた凄い。角刈り・ナス型サングラス・スーツ姿の渡が、炎をバックにマシンガンを構え、その下に書き殴られたような字体で『ザ・ゴキブリ』とタイトルが入る。
ジャケ買いする価値がある迫力だ。タイトルもDVDジャケットも、そして内容も。素敵なインパクトにあふれた作品といえる。