東京から東海道新幹線「ひかり」に乗って約1時間。静岡駅からは在来線に乗り継いで30分ほど揺られると、金谷という小さな駅に着く。ホームの先はすぐにトンネルになっていて、駅舎の裏側は急な崖。お茶づくりでその名轟く牧之原台地の縁にある小さな駅だ。この、とりたてて交通の要衝とも言えなさそうな駅から分かれているのが、大井川鐵道である。
大井川鐵道といえば、鉄道ファンでなくとも知っている人は多いだろう。蒸気機関車が平日も含めた“ほぼ毎日”走っている日本で唯一の鉄道路線(現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のために平日は運休中)だ。豪快に煙をあげて、シュッポシュッポと音を鳴らして走っていく蒸気機関車。大井川鐵道では4両ものSLを保有して、約半世紀に渡って運転を続けている。
究極のローカル線になぜSL?
大井川鐵道が走っているところはなかなかすごいところである。地図を見ればわかるが、市街地といえるようなところがあるのは起点に近い金谷~五和間ぐらいなもので、その後はほとんどひたすら大井川沿いのわずかな平地を縫うようにして走っていく。途中で大井川を何度か渡ったりしながら、小さな平地では茶畑の横をゆく。静岡らしいといえば静岡らしいが、ある意味“なにもないところ”を走っている路線なのだ。そんな究極のローカル線にどうしてSLが走っているのだろうか。