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「新型コロナの影響はありますよ……」

 ま、とにかくそういうわけで、一介のローカル線であって沿線に大きな町をほとんど持たない大井川鐵道はこうして我が国随一の観光路線になった。

「もちろん、生活路線としての役割も重要です。本線では金谷~五和間を中心に地元の学生さんたちのご利用がありますし、井川線ですらたまに地元の方が利用されます。定期券収入は全体の1割と少ないですが、それでも守らなければいけない。それを支えているのが、SLをはじめとする観光路線なんです」(山本さん)

大井川鐵道金谷駅

 数年前に普通列車を減便した際には“地元軽視”という批判もあったという。だが、きかんしゃトーマスのラッピングをした「きかんしゃトーマス号」の運転などで知名度をあげ、沿線地域の活性化にも貢献。大井川鐵道は国内外の観光客が絶えず訪れる観光路線の白眉として人気を集めている。

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「新型コロナウイルスの影響はありますよ。正直、お客さまはかなり減っています。でも、だからといってSLの運転をやめるわけにはいかない。『自粛だから辞めますね』という問題ではないんです。なにしろ、SLが走っていることに大井川鐵道の存在意義があるといってもいいくらいですから」(山本さん)

 

「ここではSLが日常だから」

 沿線で取材をしている中で、地元の人にも少しだけ話を聞いてみた。

「いつもSLが走ってるでしょ、これがこのあたりでは日常なんです。週末とか夏休みだけ走ると特別な気分になるんでしょうけど、ここではSLが日常だから。昭和みたいでしょう(笑)」

 
 

 大井川鐵道で走っている普通電車も、かつて南海や近鉄で走っていた旧車両。それが往年の姿とほとんど変わらず現役なのだ。そういう点でも、大井川鐵道はまさしく“生ける保存鉄道”。

 

 古い車両の、決して乗り心地のいいとはいえないシートに腰掛けて、窓を開いて大井川沿いの列車の旅。茶畑と大井川の流れが目に入り、レールの継ぎ目をまたぐ揺れとガタガタ音。それがSLならば、汽笛の音が聞こえて煙も窓から入ってくるだろう。カーブを繰り返して急勾配を登る井川線ならレールと車輪が擦れてきしむ音が絶えず聞こえてくる。まさしく“五感”で楽しむ大井川鐵道。都会の静かで乗り心地のいい最新電車もいいけれど、たまにはこういうローカル線の時間を過ごすのもいいものである。

写真=鼠入昌史