1973年作品(81分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

 ここのところ、イベントや講演、ネット配信やラジオ番組などで旧作邦画や時代劇を語る機会を増やしているのだが、一つ気になることがある。

 それは、「丹波哲郎」という名前を発した時、条件反射的にお客さんや共演者が笑っている感じになる点だ。たしかに、「霊界の宣伝マン」という謎の自称、「撮影現場にセリフを全く覚えてこない」といった豪快かつイイ加減な逸話、大作映画における大物役での短い顔出し的な出演――などにより「笑いのネタ」になりやすい役者ではあるし、多くの人の中にそうした印象があるのはよく分かる。だが、忘れてほしくないことがある。

 それは、丹波哲郎が役者として「名優」でもあった、ということ。そこで今回からしばらくは、丹波の名優ぶりを堪能できる作品を追っていく。

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 まず取り上げるのは、『ポルノ時代劇 忘八武士道』だ。

「役者としての丹波」を語る上で欠かせないのは、彼が殺陣の名手であったことだ。元から剣道や槍術などに長じており、刀を振る速さや重さ、構えた時の腰の座り具合、そしてアクションとしての切れ味。いずれも一級品だったりする。それを活かして、フジテレビ『三匹の侍』などで荒々しいリアルな殺陣を見せた。

『忘八~』でもまた、丹波の殺陣の見事さを堪能できる。

 舞台は江戸時代の吉原。流れついた謎の腕利き浪人・明日死能(丹波)は遊郭の用心棒として雇われ、その利権を巡る争いに巻き込まれていく。

 小池一夫の劇画原作を元に石井輝男監督が吉原の世界を映像化しただけあって、全編を下世話なまでのエロスとバイオレンスが貫いている。そうした中にあって、丹波一人だけ雰囲気が違う。長髪に白装束という身なりと、名前をそのままに表したような生気のない眼差しがマッチして、「われ関せず」と言わんばかりにニヒルでクール。なんともカッコイイのである。

 そして、お待ちかねの殺陣はラストで存分に楽しめる。

 死能は政治的な妥協の生贄となり、おびただしい数の吉原の忘八者(無頼の輩)と捕り方に囲まれ、狙われる。だが死能は、阿片を盛られフラフラになりながらも迫りくる者どもを次々と斬り伏せていく。

 丹波の眼光と切っ先はおぼつかない足下と裏腹に、鋭さを増していく。その迫力あふれるたたずまいが、降りしきる雪の中で剣を振るうシルエットに美しさと力強さを与える。そして、彼に斬られた腕や首は物理的にありえない方向に飛ぶのだが、その無茶さに説得力をもたらすことに。

 劇画の世界の住人に徹頭徹尾なりきって、この世ならざるキャラクター性とアクションを表現してのけているのだ。