1965年作品(92分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

 各地で大雪が降るなど、冬の寒さが本格化してきた。

 旧作邦画で「冬」「雪」といえば、やはり高倉健だ。そのくらい、冬を舞台に雪の中にたたずむイメージが強い。そこでしばらくは、「高倉健=雪」という組み合わせの端緒となった「網走番外地」シリーズを取り上げていく。

 高倉健主演=石井輝男監督のコンビが東映東京撮影所で作ってきた一連の作品は、一九六〇年代後半の日本映画において毎年のように興行収入トップ5に複数作品ランクインするほどの人気があったが、どの作品もそれぞれにそれだけの魅力が溢れている。

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 まず今回は一作目となる『網走番外地』。

 基本的にこのシリーズは高倉健扮する橘真一が主人公であることと、彼が網走刑務所に収監されていることが共通するテーマになっている。が、後のシリーズ作品は出所後の橘の活躍がメインになっているのに対し、本作はほぼ全編が刑務所内で展開される。

 橘、大槻(田中邦衛)、権田(南原宏治)、夏目(待田京介)、鬼寅(嵐寛寿郎)ら服役囚たちが収監されるために網走駅に降り立つところから物語は始まる。威勢と気風がいい橘、口から出まかせの大槻、スケコマシの夏目、橘にやたら突っかかる権田、そして何か曰くありげな鬼寅……。冒頭から既にそれぞれのキャラクターが際立っており、そんな彼らの群像劇として話は進んでいくものだから、刑務所での彼らの姿を眺めているだけで楽しくてたまらない。

 軸となるのは、先輩風を吹かせて高圧的な牢名主格の依田(安部徹)とそれに従う囚人たちと、曲がったことが大嫌いな跳ねっ返り者で喧嘩っ早い橘との対立。厳寒の雪景色の中で展開されるアウトローたちの人間模様が、時おり挿入される哀愁漂う主題歌とともに映し出される。これがモノクロの映像とあいまって、賑やかなことをやっているにもかかわらず、罪を背負った者たちの陰が寂寥感とともに迫ってくることになる。

 ただ、そこはエンターテイナー・石井輝男。それだけで終わるはずもない。橘は手錠で繋がれた権田に引っ張られる形で、心ならずも脱獄することになってしまう。それを追うのは、橘を気遣う心優しい保護司・妻木(丹波哲郎)。

 この追跡劇が凄い。逃げる側も追う側も、トロッコに乗って雪の中の線路を滑走するのだ。このスピード感あふれるチェイスは、追いかけてくる丹波哲郎の鬼気迫る雰囲気もあってド迫力の緊迫感。まるで『インディ・ジョーンズ』のようなジェットコースター感を味わうことができる。

 徹頭徹尾、「映画の楽しさ」に満ち満ちた作品だ。

泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと

春日 太一

文藝春秋

2018年12月12日 発売