東映京都撮影所の叩き上げのベテラン・関本郁夫監督が自伝本『映画監督放浪記』を出された。東映京都ならではの濃厚な人間模様はもちろん、フリーになってからの角川やにっかつ等のエピソードも満載で、五百頁超におよぶ重要な証言集となっている。
関本作品の最大の魅力は、荒々しいアクションだ。その才は『影の軍団』『大激闘マッドポリス’80』といったテレビドラマで遺憾なく発揮された他、『新 仁義なき戦い 組長の首』ではB班監督として、シリーズ屈指のカー・アクションを演出した。
アクション演出の冴えは初期作品から既にうかがえる。今回取り上げる『女番長(スケバン) 玉突き遊び』も、そんな一本。
本来なら関本のデビュー作となるはずだったが、撮影中に主演の叶優子が負傷。撮影延期となったためにその間に別作品を撮って監督デビューした――という曰くがある。
物語の舞台は大阪・ミナミ。今日子(叶)の率いる不良少女グループと、ライバルのカトレア会との抗争が描かれる。
まず、冒頭から強烈だ。今日子とカトレア会のリーダー・三奈(衣麻遼子)は橋の下で決闘するのだが、このアクションが凄い。川の中に全身浸かり、互いに泥まみれになりながらの、必死の肉弾戦なのだ。それを追いまくるカメラの揺れ動きぶりも含め、さながら深作欣二監督のヤクザ映画のような躍動感。ド迫力の死闘が展開されていく。
「女番長シリーズ」を始めた鈴木則文監督による初期作品は、時おりギャグを交えつつ、艶やかに少女たちを映し出す、美しいソフトタッチで彩られていた。が、関本演出はその正反対。薄暗いドキュメントタッチで切り取る。
その映像は、何度となく繰り広げられるリンチシーンに特に効果をもたらしていた。リンチ場面は、廃ビルや町工場などで撮られているのだが、その殺風景さと凄惨な暴力描写のもたらす生々しさにより、今日子たちの痛みや苦しみが鋭利に突き刺さってきた。
浜辺でのカトレア会との乱闘シーンも壮絶だ。少女たちは身体をぶつけ合うように取っ組み合い、砂浜で、水中で、なりふり構わず格闘する。
しかも、関本のアクションはただ激しいだけでなく、アイデアも抜群なのだ。クライマックスでヤクザの密会場に乗り込む際は、モーターボートごと建物の窓を突き破って乱入してしまう。さらにラストは、そこから逃げるヤクザを相手にしての水上ボートチェイス&銃撃戦だ。これがまた、スピーディで緊張感が抜群だったりもする。
当時の東映京都でも、これだけのアクションを撮れる監督は関本以外にいなかった。